平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「あっち」と「こっち」は地続きだった。

懐かしのチームメイトから電話があり結婚の報告を受ける。来年5月に式を挙げるらしい。後輩だからまたもや追い抜かれたことになるが、これまでにもたくさんの後輩に抜かれているからそれほど気に留めることもない。学生の頃から顔見知りで、敵味方に分かれたこともあり、少しだけ同じチームでプレイしたその後輩とは、グラウンド以外でもよく語り合った。ホントにおめでとう。ぜひとも出席させてもらいます。

というわけで気がつけばもう35歳である。35歳という年齢に驚くというよりも、現役を引退してから4年が過ぎようとしていることに驚く。もう4年も経ったという印象と、まだ4年しかたっていないという印象がごちゃまぜだ。脳震盪の後遺症で視界が歪み始めたのが6年前。そこから向こう(過去)とこっち(~現在)ではボクという人間は大きく異なっているように思われる。「向こうとこっち」という表現にも現れている通り、6年前より昔は今のボクの意識の中では「向こう側」なのである。こっちでなくあっち。

その「向こう側」を懐かしく思い返す時もあって、その時の実感としては「思えば遠くに来たもんだ」である。今のところ6年前の時点でボクという人間は断裂している。という言い方はちょっとキツイ表現になるので言い直すと、違う人生が始まったということだ。ありていに言えばセカンドキャリアの始まり始まり。それからここでは書けないようなちょっとした出来事もひとつふたつあって、明らかにそこから違う道を歩み始めた。だって、ボールを持ってトライすることができなくなったのだから。

現役を退く時がいつかは必ず来るとずっと思ってはいた。思ってはいたものの、いざ踏み出してみたらなかなかどうして。それまでは力強く直線的に歩けばよかったけれど、新しい道は踏ん張らずしなやかに、ときに寄り道もしながら歩かなければならないときた。想像力が足りなかったんだろうねえ、この違いにはホントびっくりしちまった。今もその驚きは尾を引いている。能天気だったこともあるんだろうねえ、「まあなんとかなるか」、本気でそう思っていた。

なんてことをこれまでにもつらつらと書いてきたけれど、その意味がようやくわかった。ボクはここでこうしてクヨクヨした想いを書き連ねることでとにかく今までやってこれたんだよなあってことが。書く=語る=客観視、つまり言葉にすることで苦しみや迷いを自分から切り離してきたんだよな。それこそ読み返せば恥ずかしくて消去したくなる内容もあったけれど、なぜか消去せずに残しておかないとアカンよなって思った。個人のブログだし、読み苦しいものであれば必然的に誰も訪れなくなるだろうから、そこまで配慮しなくてもええかという開き直りもあったが、今となっては残しておいてよかったと思う。

ボクのカッコ悪い部分がブログとして残っている、つまりこれからどれだけカッコつけてもカッコはつかないっていうことだ。そう腹を括ることができたらどれだけ楽になるだろう。目指すべきところが間接的に把握できるという意味において、書き残してきて本当によかったと思う。もちろんすぐに腹が括れるとは思っちゃいない。そう簡単には問屋が卸さないのはわかっている。まだまだ時間はかかるだろうが、それでも目指すべき境地として具体的にそれがあって、動かしようのない現実としてブログがある。もう逃げようがない。諦めるしかない。なるほどね、こうした意味合いもブログにはあるんだな。ここまで書いてきて気が付いた。

過去を振り返った時に「思えば遠くに来たもんだ」という実感があると先に書いた。この実感には「この先どこぞへいくんだろ」という期待が付随している。だってあの時の自分、病を患い二進も三進も行かなかったあのときの自分が今の自分を想像し得たかというと、とんでもない。まったくの想定外だった。ということはだ、これから先もそうなる可能性は高いとみて間違いない。ホントにどこぞへいくのやら。

ただね、ここんところずっと感じているのは「あっち」と「こっち」は地続きなんだなあということ。考えてみれば当たり前のことなんだけど、今までのボクはそうは思えなかったんだなあ。「あっち」はあっち、「こっち」はこっちという意識が知らず知らずのうちに芽生えていた。とにかく「あっち」にはもう戻れないのだからそこに頼ることはやめて、また一から「こっち」でやらなければならないという風に、自分で自分をけしかけていた気がする。だからね、背伸びをしすぎて思考がこんがらがって生き方がぐらぐらしたり、自らの置かれている環境への感謝の気持ちが薄らいだり、なんだかグチャグチャになっていたんだなあ。できることしかできないのに、ね。いつかのツイッターで等身大云々とつぶやいていたのはまさにこうしたことをグルグル考えていたからなんです。

他の現役を引退したスポーツ選手はどんな心境で日々を過ごしているんだろう。それが最近のボクが知りたいことの一つです。ボクみたいにウジウジしている人はいないのかなあ。蛇行続きの歩みでここまできたけれど、やっぱり自分が一番輝いていたであろうあの頃は懐かしく誇らしい。あの頃に戻りたいとは決して思わないけれど、そう思う。

あー、ようやくこの一言が言えた。ちょっとすっきり。