平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

『身体観測』@毎日新聞

「スポーツを語る言葉」身体観測第127回目。

ラグビーW杯が開催中である。各国の真剣勝負に思わず拳を握りしめるほどの興奮を味わいながら、テレビ画面にかじりついている。ラグビーは面白い。むしろ現役を退いてからの方が強く感じる。思い返せば、現役時はここまで前のめりになって試合を見ることはな…

「GPSの導入に一言」身体観測第126回目。

練習中の選手に小型のGPSをつけて総走行距離や加速度を測定する技術が、スポーツ現場に浸透しつつある。乳酸値や心拍数の変化まで測るというから驚く。ベンチプレスやスクワットなどの筋力測定や50m走やシャトルランなどの体力測定。これら旧来のものに加え…

「伊良部氏への追悼」身体観測第125回目。

伊良部秀輝氏の訃報を知り、やり場のない脱力感を覚えた。個人的な知り合いでも、熱烈なファンでもないのに、しばらく呆然としてしまった。あれほどまでに見る者を魅了した選手がなぜ自殺するに至ったのか。憮然とした表情を浮かべ、悪びれた素振りを見せる…

「スポーツは祭?」身体観測第124回目。

「スポーツとは何か?」。現役選手だった頃は考えもしなかったけれど、研究者となってからは一度たりとも頭から離れない問いである。一種の遊びには違いない。だが、体力向上や集団訓練のための機会でもあり、チームによれば軍国主義を想起させるような厳し…

「贈られ続けたパス」身体観測第123回目。

あれは神戸製鋼に入ってすぐのころだった。日本代表選手がひしめくバックス陣に囲まれて戸惑ってばかりいた。まるでスピード感が違うのだ。走り出しの5歩、一連のパス動作が速い。ボールから目を離せばあっという間に置き去りにされ、ボールを掴んでから放…

「歓声の後押し」身体観測第122回目。

スポーツ指導は本当に難しい。マニュアル的な指導は空回りするし、選手時代の経験を無理強いすれば選手との間に溝ができる。おそらくはこのどちらにも偏ることのない指導が理想なのだろう。各スポーツで活躍されている指導者を参考にしつつ自らの経験を一つ…

「ケガから始まる」身体観測第121回目。

ケガをしたことがきっかけで僕は現役を引退した。ある日の練習で軽く相手とぶつかった直後、ふと顔を上げると右斜め前方に立っている選手が二人に見える。心なしか視界がぼやけていてふらつく感じもする。たとえるなら水族館で分厚いガラス越しに魚を見たと…

「矛盾を抱えるラグビー」身体観測第120回目。

現役を退いてからというもの選手への名残惜しさを抱えながらラグビーについて考え続けているのだが、考えれば考えるほどに不思議なスポーツだなと思う。押しつけがましいかもしれないが、ラグビーに育てられた身としてはラグビーの魅力をたくさんの人に伝え…

「ハサミを使うこと」身体観測第119回目。

新聞記事を切り抜く際にはいつもカッターナイフを使うのだが、あるとき近くにハサミが置いてあったのでそれを使うことにした。いつもなら新聞紙を広げ、デスクを傷つけないように雑誌を敷くなどして四辺をなぞればそれで終わりだが、ハサミだとそうはいかな…

「身体で聴く」身体観測第118回目。

いい音で音楽を聴くことがとびきり好きな先輩がいる。ある時、厚かましくもその先輩の家に邪魔してボサノヴァを聴かせてもらった。耳の奥ではなく胸のあたりで音が鳴っているような奇妙な感覚が新鮮で、とても不思議だった。同じ曲でも音が違えばこれほどま…

「スポーツが果たす役割」身体観測第117回目。

東日本大震災から3週間が経過した。画面を通して伝えられる復興の様子に少しずつ心も落ち着いてくる。避難所で過ごす方々の笑顔を見た時はなおさらだ。そのたくましさに生きる勇気が湧く。安易に同情するわけにはいかないと身が引き締まる。 震災前にジャズ…

「ここではないどこかへの想像力」身体観測第116回目。

東北・関東地方を襲った未曾有の大地震から2週間が経とうとしている。まるで映画のワンシーンかのような津波からは自然の恐ろしさを痛感し、福島第一原子力発電所で起きた事故からは原子力の危険性について今も考えさせられている。同じ日本列島にいる者とし…

「理想のリーダー像とは」身体観測第115回目。

スポーツ指導者の端くれとして今も頭を悩まし続けるのは、「理想のリーダー像とはいかなるものか」についてである。チームの結束を固めるためにはどうふるまえばよいのかを考える上で、理想のリーダー像を頭に描いておくことはとても大切である。世間一般に…

「楽しさを伝えること」身体観測第114回目。

菅平高原でのスキー実習を終えて帰ってきた。ラグビー選手にとっては馴染みが深く現役時代に幾度となく訪れたその場所でスキーを教えていると、なんだか不思議な気分になる。1500m走などの体力測定や、緊張感たっぷりで臨んだセレクションマッチがふと思い出…

「相撲は神事」身体観測第113回目。

大相撲の八百長問題が世間を騒がせている。携帯電話でのメールのやり取りから八百長が発覚し、事態を重くみた日本相撲協会は大阪での春場所を中止する決断を下した。さらには年内に予定されていた全巡業も取りやめ、本場所の無期限中止という前代未聞の事態…

「準備運動って必要?」身体観測第112回目。

近所の公園は休日になるとたくさんの子どもたちが集まる。散歩の途中などに立ち止まって遊んでいる様子を眺めたりもするのだが、子どもたちはみな公園に着くや否やすぐに駆け出していく。たとえ冬の寒い日であってもストレッチなどをせずにいきなり跳んだり…

「引き分けという結末」身体観測第111回目。

早いもので現役を退いてから4度目の正月を迎えた。正月の楽しみはラグビー観戦と決まっており、高校、大学、トップリーグと今年もたくさんの試合に心を踊らせた。大学選手権は帝京大学が尻上がりに調子を上げ、決勝で早稲田大学を破って2連覇を達成。対抗…

「負けず嫌いな性格」身体観測第110回目。

今は「負けの美学」についてあれこれ考えている僕でも、その昔は大の負けず嫌いであった。小学生のころは、家事に勤しむ母に頼み込み1度限りの条件で許された将棋も負ければ泣きながら「もう1回」と駄々をこねる始末だったというし、親戚とのトランプでも…

「“史上最弱”の称号」身体観測第109回目。

同志社大学ラグビー部が関西リーグ7位に終わり、全国大学選手権の出場を逃すとともに下部リーグとの入れ替え戦に回る。この事実を知ったときはさすがに驚きを隠せなかった。ここ数年の戦績が振るわなかったにしてもまさか大学選手権への出場が絶たれることに…

「つけるものか、つくものか」身体観測第108回目。

スポーツが上手くなるためには筋力トレーニングが不可欠である。この考え方が社会全体に広がりつつある。端的に運動能力を上げるには筋肉をつければよいという考えが私たちの意識に根を張りつつある。 筋肉はつけるものか、つくものか。「身体」の研究を始め…

「まずは声を聴くこと」身体観測第107回目。

スポーツ現場はにぎやかだ。特にラグビーやラクロスなどのゴール型競技では「かけ声」で埋め尽くされている。声を出せば練習は活気づくし、声をそろえれば仲間同士の一体感も深まる。散漫になりがちな集中力も保たれやすくなる。しかし、「声を出すこと」の…

「プレーを象ること」身体観測第106回目。

ラクロスに関わって今年で3年目。選手経験がないだけに技術に関するアドバイスには慎重になりながらも、身体の使い方やパスについては積極的に声をかけている。流れるようにつながったパスは見ていて気持ちがよい。たとえ素人目にもそれは美しく映る。また…

「賞状を破るなんて」身体観測第105回目。

電話口で思わず耳を疑った。まさかそこまでゆき過ぎることはないだろうと思っていたからだ。でもこの見通しは甘かった。すべてとは言えないにしても、一部のスポーツ現場では旧態依然の根性論的指導がまかり通っているのはどうやら間違いなさそうである。 事…

「為せば成る!」身体観測第104回目。

長らくサッカー指導をしている人からこんな話を聞いた。小学校で始めた選手と大学から始めた選手とではボールの扱い方の滑らかさに大きな違いがあり、その差はどれほど練習したところで埋まるものではない。日常生活において「足を使って何かをする」という…

「伝統の力、『名前負け』」身体観測第103回目。

2010年度の関西ラクロスリーグが始まっている。1部リーグに昇格したばかりの神戸親和女子大学はここまで1勝3敗。同じく昇格したばかりの大阪市大に辛うじて勝利を収めたものの、続く3試合は敗北を喫している。全8チーム中で最下位になれば自動降格、7位だと2…

「懐かしのコウベ」身体観測第102回目。

三洋電機ワイルドナイツvs東芝ブレイブルーパスの試合を皮切りにラグビートップリーグが開幕した。3年連続準優勝で今年こそ優勝をと切に願う三洋電機が安定した戦いぶりで勝利を手にしたが、破れた東芝も終了間際にトライを奪うなど底力を見せつけた。その…

「未来への敬意」身体観測第101回目。

夏の風物詩である全国高校野球選手権大会は興南高校の優勝で幕を閉じた。猛暑続きで体感的には夏の終わりが感じられないが、高校野球が閉幕したとなればなんとなく秋の始まりが予感される。最も印象的だった試合は仙台育英―開星である。開星が2点リードで迎…

「"ラグロス”研究中・・・」身体観測第100回目。

ラクロス部の顧問に就任して早3年目。慣れ親しんだラグビーではなく未知なるスポーツを教えることに当初は戸惑いを隠せずにいた。だが、いつからか楽しむ余裕が出てきたようで、先日行われた夏合宿では練習やミーティングでもっともらしい言葉を口にしてい…

「右肩の傷から学んだこと」身体観測第99回目。

僕の右肩には10㎝ほどの手術痕がくっきりと刻まれている。その傷を見る度に思い出すのは術後に襲った尋常ではない痛み。あまりの疼きにベッドの上で夜通しのたうち回った。一晩に3度もナースコールで看護士を呼んだ。座薬を入れた直後は幾分か治まるものの…

「審判への敬意」身体観測第98回目。

約1か月にわたり熱戦を繰り広げたサッカーワールドカップ南アフリカ大会もスペインの優勝で幕を閉じた。それほど熱心なファンではない私でさえも一抹の寂しさを感じているのだから、睡眠時間を削ってテレビにかじりついた熱烈なファンは祭りの後のような静…