平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「理想のリーダー像とは」身体観測第115回目。

 スポーツ指導者の端くれとして今も頭を悩まし続けるのは、「理想のリーダー像とはいかなるものか」についてである。チームの結束を固めるためにはどうふるまえばよいのかを考える上で、理想のリーダー像を頭に描いておくことはとても大切である。世間一般に考えられている理想のリーダー像とは、決断力と行動力を兼ね備え、率先して周囲にいる人間を引っ張っていくような人物であるが、もしこれが本当なら僕にはリーダーとしてやっていく自信がない。そもそもの性格が優柔不断で強制的な言葉遣いを苦手とする僕がリーダーとしての務めを全うするにはどうすればいいのだろうか。

 ほとんど絶望的かもしれないとあきらめかけていたとき、ある言葉のおかげで一縷の望みが生まれた。かの松下幸之助が、リーダーが身につけておくべき3つの資質に「愛嬌があること」と「運が強そうなこと」と「後ろ姿」を挙げていたからである。実を言えば一読しただけではその本質をよく理解できなかったのだが、真意を探るべく掘り下げた哲学者・鷲田清一の言葉に目から鱗が落ちたのである。

 愛嬌がある人間にはスキがある。だからこっちがしっかりしていないとという気を起こさせる。運が強そうな人が近くにいればどんなことでもできそうな気になる。新しいことにも挑戦しようと意欲的になる。思わず見とれてしまう後ろ姿は謎を蔵している。この人は何を考えているのだろうと想像力がかき立てられる。つまり、これらの資質はすべて周囲の人を能動的にするのである。 

 ちょっと頼りないけれどひたすら陽気で細かなことを気にしない人。こんなリーダーの下ならミスを気にせず伸び伸びと楽しくプレーできるに違いない。それにこっちなら僕にも目指せそうな気がする。後ろ姿に哀愁が漂うまでにはかなりの時間がかかりそうだけど。

<11/03/08毎日新聞掲載分>