平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「"ラグロス”研究中・・・」身体観測第100回目。

 ラクロス部の顧問に就任して早3年目。慣れ親しんだラグビーではなく未知なるスポーツを教えることに当初は戸惑いを隠せずにいた。だが、いつからか楽しむ余裕が出てきたようで、先日行われた夏合宿では練習やミーティングでもっともらしい言葉を口にしている自分に驚いた。ラクロスへの理解はまだまだ浅く、学生同士の専門的な話をすべて理解するまでには至っていないが、ボールゲームという観点から彼女たちが言わんとすることに想像が及ぶようになったからだろう。

 ラクロスは虫取り網のような「クロス」でボールを扱う。ボールキャリアは歩数制限もなくどこまでも自由に走り回ることができる。もちろんディフェンダーは隙あらばクロスをはたき落とし、身を挺して邪魔をするので、ほとんどはパスをつなぎながら攻めることになる。

 このクロスの使い方がなかなか難しい。虫取り網ほどネット部が深くないので、キャッチの瞬間には衝撃を吸収すべくクロスを引かなければ弾かれてしまい、またスローのときも振りかぶりすぎれば遠心力が働いて真上にヘナヘナと上がるばかりとなる。クロス捌きには手先の微細な感覚が求められる。

 あわててラクロスの勉強をするよりも、ほぼ素人的な視点で彼女たちのプレーから感じとれるものを大切にしようと今までは心がけてきたが、さすがに3年目にもなるとクロスくらいはうまく使いこなせないと格好悪いぞと思うようになった。この合宿では以前に学生たちからプレゼントされたマイクロスで学生やOGとキャッチボールを繰り返し、シュート練習にも交じった。ふとラグビーを始めたばかりのときのあのワクワク感が思い出されてなんだかとても心地よかった。

 ラグビー経験に基づくラクロス理解なので僕は勝手に「ラグロス」と名付けている。ラグロス研究の道はまだまだ続く。 

<10/08/10毎日新聞掲載分>