平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

『身体観測』@毎日新聞

「つまみ見る楽しみ」身体観測第97回目。

カメルーン戦にしぶとく勝利を収めた日本代表は、続くオランダに敗れはしたもののデンマークに3−1で勝利してベスト16進出を決めた。最終戦、揺れて落ちる本田選手のフリーキックは見とれてしまうほどにきれいな弧を描いていた。心理的な駆け引きを制した…

「「経験値』という言葉に」身体観測第96回目。

スポーツニュースで耳にするたびに違和感を覚える言葉がある。「経験値」である。たとえば、代表に選ばれて間もなく試合に出場したのだがあまり活躍できなかった選手を指して「経験値が足りなかった」と評したりする。言わんとすることはよくわかる。迫りく…

「ラグビーに求められる身体知」身体観測第95回目。

運動伝承研究会で発表する機会をいただいた。テーマは「判定競技であるラグビーに求められる身体知について」。ラグビーは敵味方を合わせた30人が70m×100mのグラウンドで一つのボールを奪い合う陣取りゲームである。歩数制限もなくドリブルをしなくてもよい…

「W杯の思い出」身体観測第94回目。

来月11日に開幕を迎えるサッカーワールドカップの日本代表メンバーが発表された。川口能活選手の選出や本線での戦い方などの話題が各メディアを賑わせている。こうした報道に触れて、ふと自分が出場したときのことを思い出した。サッカーに比べればはるかに…

「子どもは日に日に成長する」身体観測第93回目。

最寄り駅の階段で微笑ましい光景をみた。まだ歩くのも覚束ないほどに幼い男の子は、足を大きく振り上げながら一段一段ゆっくりと階段を上っていく。その傍らで転びそうなときはいつでも手を差しのべようと構えるおじいちゃん。温かな視線が注がれているなど…

「アスリートとしての自覚」身体観測第92回目。

ラグビー時代のある後輩と「オレらの世界には心から尊敬できる人物って少なくないか?」という話になった。圧倒的なパフォーマンスを発揮する人物はたくさんいる。自分にできないプレーをいとも簡単に披露する人物には憧れを抱くも、心から尊敬できるかどう…

「大学時代を振り返って」身体観測第91回目。

久しぶりに大学時代の同級生で集まった。当時ヘッドコーチだった白川佳朗氏を囲んでの同窓会は、当然のようにラグビー談義に花が咲いた。関西リーグ5位という同志社史上最低の戦績だった僕たちの学年を、白川さんは「5位チーム」と揶揄する。からかいの裏…

「スポーツ運動学会で」身体観測第90回目。

第23回日本スポーツ運動学会でシンポジストを務めることになった。大会テーマは「現場に生きるスポーツ運動学」。ラクロス部の顧問を務める私は、未経験のスポーツを教えるという視点から実際の指導事例を紹介しつつ話をすることにした。 未経験のスポーツを…

「上村愛子選手」身体観測第89回目。

バンクーバー冬季五輪の話題が世間を賑わせている。 大会初のメダルを日本にもたらしたのはスピードスケート男子500mの長島圭一郎選手と加藤条治選手。それから男子フィギュアスケート史上初となるメダル獲得を果たした高橋大輔選手には心から拍手を送りた…

「お酒とのつき合い方」身体観測第88回目。

酒席を共にした初対面の方からは必ずといっていいほど「たくさんお酒を飲まれるのでしょうね」と訊ねられる。私を体育会育ちの人間だと見込んでの発言だろうが、返答にはいつも窮してしまう。飲めないことはないが、浴びるほど飲むわけでもない。好きかと言…

「意外にもシンプル」身体観測第87回目。

大学では『ラグビー』という実技を担当している。ほぼ未経験者である女子学生に教えるのは思いのほか難しく、悪戦苦闘している。あまりに身体化しているせいで何から教えればいいのかよくわからないというのが正直なところで、どうやらその道に長けているか…

「しなやかだった東福岡」身体観測第86回目。

第89回全国高校ラグビー大会は、東福岡が圧倒的な力で優勝を飾った。決勝戦までの5試合で奪ったトライは43、総得点274点は大会史上最多得点記録である。選抜大会と国体も優勝、昨春のワールドラグビーユース交流大会では、フランスのチームに8点差で敗れは…

「引退の意味」身体観測第85回目。

ジュビロ磐田の中山雅史選手が戦力外通告を受けたことに驚いた。元日本代表でもあり、長きに渡りジュビロを引っ張り続けたあのゴン中山がまさかと思ったが、詳細を知って得心がゆく。チームからのアドバイザー就任要請を受け入れることなく現役続行を希望し…

「空間認識の差」身体観測第84回目。

ラグビーファンならお馴染みのブレディスローカップが国立競技場で開催された。ブレディスローカップとは、ニュージーランドとオーストラリアが互いのプライドを賭けて戦う国際対抗戦である。かつて私もプレーした国立のピッチで両国の選手たちが組んず解れ…

「みんなで掴んだ“一部昇格”」身体観測第83回目。

我がラクロス部が一部昇格を決めた。今シーズンの目標を達成した学生たちは、試合が終わるや否や互いに抱き合い、歓喜の声と涙でぐちゃぐちゃになっていた。 試合開始すぐに連続得点を上げ、そのままの勢いで前半は有利に試合を運んだものの、後半に入ると一…

「個体差と多様性」身体観測第82回目。

ロンドンで行われた体操・世界選手権で内村航平選手が金メダルに輝いた。しなやかで流れるような動きは、ニュース番組でのわずかな映像からでも伝わってくるほどである。先の世界陸上で驚異的な世界記録を打ち立てたウサイン・ボルト選手のしなやかな走りも…

「重圧の克服」身体観測第81回目。

スポーツなどの身体運動では「重圧の克服」が大きな課題となる。スタメンに名を連ねた試合、大きな大会の決勝戦など、ここ一番の舞台を前にすれば重圧を感じてほとんどの選手は緊張を強いられる。勝てるだろうか、うまくプレーできるだろうかといった不安が…

「09’トップリーグ開幕」身体観測第80回目。

ラグビートップリーグ2009-2010が開幕した。シーズンインを迎えるこの時期になれば今でも自然と気持ちが高ぶってくる。現役時に培われた習慣が気持ちを高ぶらせるのであろう。フィジカルに刻み込まれた記憶はそう簡単に消え去りはしない。いてもたってもいら…

「不祥事の影響」身体観測第79回目。

ラクロス部の打ち上げに参加したときのことである。ぞろぞろと店内に歩みを進める学生たちに対して、店長と思しき人物が入り口で一人一人に学生証の提示を求めている。どうやら年齢確認をしているようである。未成年者はこちらのテーブル、そうでない者はあ…

「祝!ラグビーW杯開催」身体観測第78回目。

2019年にラグビーW杯が日本で開催される運びとなった。開催国の意地を見せるための代表強化、試合会場の整備、開催国に義務づけられた国際ラグビーボード(IRB)への拠出金の確保など、大会運営に向けての課題は山積しているとのことだが、長らくラグビーに…

「健康ってなに?」身体観測第77回目。

「健康行動学」という講義を担当しているので、昨年度から集中的に「健康」に関する書物を読んでいる。日常生活でも、「健康」に関する情報をキャッチしようとアンテナを張り巡らせてもいる。ケガに悩んだあのころの経験を思い出して体感的に考え込むことだ…

「近所の公園で」身体観測第76回目。

近所の公園では、休日になると友達同士でサッカー的な遊びをしたり、お父さんとキャッチボールをしたり、その傍らではお母さんが見守る中をよちよち歩きの子どもが砂をいじっている光景が広がる。ある時、野球らしき遊びに興じている子どもが握っているプラ…

「『1対1』という言葉づかい」身体観測第75回目。

試合後に監督や選手が「1対1」という言葉で試合を振り返るシーンをよく見かける。翌日の新聞各紙に掲載されるコメントにも「1対1」が頻出している。特にサッカーやラグビーなどのゴール型競技では顕著で、「1対1で負ければ戦術云々の話ではなくなる」…

「夢中になるってこと」身体観測第74回目。

神戸親和女子大学では、生涯学習の場と位置づけた地域に向けての公開講座を開講している。この中に小学生を対象とした地域交流プログラムがあり、全16回の内のいくつかを担当することになっている。ちょうど4回目となる今回のテーマは「敏捷性」であった。 …

「「ええ格好』しい」身体観測第73回目。

電車などであのバッグを肩に担いだ高校生を見かけると、ふと懐かしくなる。エナメル素材のラグビーバッグである。高校時代は、同志社香里ラグビーフットボールクラブの頭文字DKRFCがこれ見よがしに大きくプリントされたそれを、誇らしげに持っていた。少し横…

「体育会系」身体観測第72回目。

4回生は神様で3回生は人間、2回生は奴隷で1回生は空気。これは、「体育会系」におけるタイトな人間関係を表した一つの比喩である。私自身はこれほどまでに理不尽な環境でプレイした経験はないので、この比喩が現実なのかどうかを体感的には判断できないが、…

「散歩の気持ちよさ」身体観測第71回目。

現役時代の終盤には、よく散歩をするようになった。視界の歪みやズレといった自覚症状から脳震盪の後遺症と診断され、復帰までの目処が立たない中で安静を強いられていたときに少しでも身体を動かしたくて始めたのが散歩だった。 当然のように、これまで行っ…

「痛覚の不思議」身体観測第70回目。

ラグビートップリーグ元年の2003-2004シーズン、神戸製鋼コベルコスティーラーズは好調だった。サントリーサンゴリアスとの開幕戦には敗れたものの、以降は順調に白星を積み重ね、シーズン終盤には優勝を争っていた。個人的にも身体のキレがよく、チーム状態…

「デフラグビーを指導して」身体観測第69回目。

先日、デフ(Deaf)の人たちにラグビー指導をする機会に恵まれた。聴覚障害者によるデフラグビーは国際大会への参加や海外遠征など積極的に活動しており、強化合宿の臨時コーチとして招かれたというわけである。 指導内容を考えるに当たって率直に興味を抱い…

「故障者の孤独な闘い」身体観測第68回目。

仲間が練習している風景を、ケガをした選手が恨めしげに眺めている。手持ち無沙汰を紛らわすようにスポーツドリンクを作る姿が、実に健気に映る。思うように動かぬ身体は焦りを、練習や試合に参加できない状態はチームから取り残されるのではないかという不…