平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「09’トップリーグ開幕」身体観測第80回目。

 ラグビートップリーグ2009-2010が開幕した。シーズンインを迎えるこの時期になれば今でも自然と気持ちが高ぶってくる。現役時に培われた習慣が気持ちを高ぶらせるのであろう。フィジカルに刻み込まれた記憶はそう簡単に消え去りはしない。いてもたってもいられなくなるこの気分は、私自身の秋の風物詩としてしばらくは続きそうである。


 片付かない気持ちを胸にスポーツバーへと足を運び、昨季1位の東芝ブレイブルーパスと2位の三洋電機ワイルドナイツの開幕戦を観た。トップリーグを制しながら部員の不祥事により日本選手権への出場辞退を余儀なくされた東芝と、リベンジの思いが燻るままに王者不在の日本選手権を制した三洋電機。人気、実力共に日本ラグビー界を牽引する両チームの意地がぶつかり合う試合に、店主をはじめ集まったラグビーファンは思い思いに解説や実況を挟みながら画面にかぶりついていた。

 フォワード経験者は、タックル成立後のボール争奪局面についてのこだわりを力説し、そこで行われる闘志を剥き出しにしたプレーに感嘆の声を上げる。反則ギリギリの細かな小競り合いには、血が騒ぐのか「いけいけ!」と声を発してビールに口をつける。

 バックス経験者の私は、ボール争奪局面が試合の大勢を決することに異論はないながらも、やはり展開する局面を目で追っている。流れるようにボールがつながる場面にどうしても目がいくのは、身体に染みついた習性である。そうしたつながりの中で自然発生的に生まれる、間合いを切って相手を抜き去るプレーには芸術的な美しさがある。

 それぞれの思い入れを持ち寄ってみんなで見る試合は面白い。価値観の交錯が面白味に厚みをもたらしてくれる。だとしても、肝心の試合が気迫に欠ける乏しい内容ならば話にもならない。また一つ、ラグビーが好きになった。

<09/09/08毎日新聞掲載分>