平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「しなやかだった東福岡」身体観測第86回目。

 第89回全国高校ラグビー大会は、東福岡が圧倒的な力で優勝を飾った。決勝戦までの5試合で奪ったトライは43、総得点274点は大会史上最多得点記録である。選抜大会と国体も優勝、昨春のワールドラグビーユース交流大会では、フランスのチームに8点差で敗れはしたものの準優勝を収めている。高校生ながら7人制日本代表合宿に招集された布巻選手をはじめ、高校日本代表候補8人を擁するチームの他を寄せつけない戦い振りには目を奪われるばかりであった。

 「とにかく強かった」の一言に尽きるのが今年の東福岡である。楽しそうにプレーする選手たちの表情が印象的で、流れるようにつながるパスとしなやかなランニングは観る者の心を釘付けにした。戦い振りを観て清々しい気持ちになったのは、選手一人一人が伸び伸びとプレーしていたからだろう。

 垣永主将は、ミスを犯した仲間を責めることはなく、慰め、励ますのだという。主将がそうなのだからチーム全体がそうした雰囲気に包まれているのは間違いない。一年前の新チーム発足時に掲げたスローガンが「愛」だったことからも、チームの成熟度がうかがえる。

 当然のように、試合に勝つためにミスは減らす必要がある。そのためには、ミスを起こした選手への叱咤が効果的であると私たちは思い込んでいるが、実はそうではない。叱咤の度が過ぎれば「ミスをしてはいけない」という意識が増幅される。この意識は身体を緊張させてさらなるミスを誘発し、やがては安全で確実なプレーばかりを選択する習慣を生み、身体からしなやかさが消失する。こうなれば観る者を魅了するプレーなど求めるべくもない。

 「ミスを責めない」という雰囲気が醸成する信頼感は選手のスケールを大きくする。素晴らしいラグビーを魅せてくれた東福岡の選手たちには心から御礼を言いたい。ありがとう。

<10/01/12毎日新聞掲載分>