平尾剛のCANVAS DIALY

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「第88回高校ラグビー決勝戦」身体観測第64回目。

 第88回全国高校ラグビー大会は、一体感と自由奔放さを兼ね備えた常翔啓光学園が、小柄ながらも骨太なプレーをする御所工・実を下して優勝を収めた。この決勝戦は実に白熱する試合であった。

 御所工・実の平均身長は170.7cmで、全国大会出場校の中でも下から数えて4番目に低い。にもかかわらず選手たちは激しくて低いタックルを浴びせ続ける。ボールを持って突進しても簡単には倒れない。力強い走りを見せるNO.8中川や卓越した司令塔SO吉井といった突出する選手も中にはいるが、それよりも選手1人1人が自分自身よりも大きな相手に臆することなく立ち向かっていくプレー振りが見ていてとても勇ましいのである。「身体が小さくたって上手く強くなれるんだ」というメッセージを全国のラガーマンに向けて発したという点で、御所工・実の決勝進出は大きな意味を持つ。

 その御所工・実を軽く凌駕した常翔啓光学園の戦い振りは感動すら覚えるほど見事であった。チームプレーと個人技が絶妙なバランスの上で成り立っているのである。個々の能力に自信を持ちすぎれば時に強引なプレーへと繋がり、それはチームプレーに支障を来す。逆に、チームプレーに徹し過ぎると個人技が損なわれる。人間的に成熟していけばチームプレーと個人技が表裏一体であることにやがては気付づいていくのだろうが、まだ高校生くらいでは両者は相反するものとして考えざるを得ないはずである。それなのに、15人が1つの身体を形成するように動きつつも、ここぞというときにはWTB国定やCTB森田が高度なスキルを見せつけるあのような試合運びは、実に愉快である。

 高いパフォーマンスを発揮するためには、濃密なチームプレーと突出した個人技、双方ともに秀で、且つバランスを保つ必要がある。その完成度の高さをまざまざと見せつけられて、改めて高校ラグビーの奥深さを知ったのである。

<09/01/13毎日新聞掲載分>