平尾剛のCANVAS DIALY

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「東芝、不祥事抱え優勝」身体観測第66回目。

 東芝クリスチャン・ロアマヌ選手がドーピング検査で大麻陽性反応を示したというニュースを知った瞬間、途方もない虚脱感を覚えた。ラグビー界の不祥事に元選手の立場からは他責的なまなざしを向けられるはずもなく、行き場のない怒りと後ろめたさが入り交じる何とも表現し難い感情が芽生えた。今になってもどうしたって悔しい気持ちを抑えられずにいる。

 その東芝が、プレーオフトーナメントのマイクロソフトカップ三洋電機を下し、2008-2009トップリーグ優勝を決めた。14チームからなるリーグの頂点を決めるに相応しい熱のこもった試合だった。球技でありながら身体を激しくぶつけ合うラグビーでは、試合序盤にボールの争奪局面で有利に立つことが勝利への近道となる。地面に倒れればボールを離さなければならず、地面に置かれたボールを獲得しようと両チームの選手がわれ先にと自らの身体を投げ出す。いわゆるブレイクダウンと呼ばれるこうしたボールの争奪局面で見られた、冷静さを保ちながらも鬼気迫るようなプレーは気迫に満ちていた。

 両チーム共に激しかった。決勝戦だからという理由だけで説明仕切れない激しさがそこにはあった。今回の不祥事に社会的責任を感じる東芝が必死になるのは当然かもしれない。ならば三洋電機があそこまで激しかったのはなぜか。それは、今回の不祥事をラグビー界全体の問題として捉え、その責任の一端を背負おうとする意志がそうさせたのだと私は思う。失った信用を取り戻そうと直向きにラグビーに打ち込んだ東芝と、その志しに応えるように一致団結した三洋電機という図式が、今年の決勝戦だったのではないか。

 両チームの戦い振り、そして東芝廣瀬キャプテンの表情を見たら、いてもたってもいられなくなった。かつて選手だった私には何かすべきことがあるのだろう。いや、ある。

<09/02/10 毎日新聞掲載分>