平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「引き分けという結末」身体観測第111回目。

 早いもので現役を退いてから4度目の正月を迎えた。正月の楽しみはラグビー観戦と決まっており、高校、大学、トップリーグと今年もたくさんの試合に心を踊らせた。大学選手権は帝京大学が尻上がりに調子を上げ、決勝で早稲田大学を破って2連覇を達成。対抗戦4位からの躍進には驚きを隠せなかった。トップリーグはこれからが正念場。東芝三洋電機トヨタ自動車サントリーのトップ4が優勝をかけて競い合う。例年になく実力が伯仲しているだけにどこが勝ってもおかしくない。熱き戦いに注目だ。

 ひたむきな姿に心打たれる高校ラグビーは毎年面白い試合が繰り広げられる。今年も例外なく目を奪われる試合が多かった。準々決勝は、東海大仰星が試合終了間際に決まれば逆転となるPGを外して桐蔭学園に敗退するという劇的な幕切れ。キックを外した責任から号泣する仲間の肩を抱き、オマエは悪くないんだと励ましながら自らも号泣する選手の姿に思わず目頭が熱くなる。真剣に取り組むからこそ仲間に優しくなれるし熱くもなれる。

 決勝戦はまれに見る好ゲームだった。2連覇を目指す東福岡と初優勝を狙う桐蔭学園との試合。序盤は展開力に優る桐蔭学園が有利に試合を進め、後半の始めまでに大量21点のリードを奪う。桐蔭がこのまま逃げ切るかと思われたのも束の間、前年度優勝校は徐々に実力を発揮しはじめる。

 東福岡は強みであるFWを全面に押し出し、徹底的に局地戦を仕掛け続けた。機動力はあるがやや軽量な桐蔭FWはわずかずつ後退を余儀なくされ、執拗な肉弾戦に体力が奪われていく。じわりじわりと攻め続けた東福岡はやがて3本のトライを奪って同点に追いつく。そして試合が終了。両校優勝となった。

 引き分けという結末が相応しいほどに素晴らしい試合だったように思う。今年の花園もまた面白かった。

<11/01/11毎日新聞掲載分>