平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「意外にもシンプル」身体観測第87回目。

 大学では『ラグビー』という実技を担当している。ほぼ未経験者である女子学生に教えるのは思いのほか難しく、悪戦苦闘している。あまりに身体化しているせいで何から教えればいいのかよくわからないというのが正直なところで、どうやらその道に長けているから上手に教えられるというものでもないようである。ラグビーとは何たるかについて、学生に教えながら実のところは私自身が学び直しているというのが現状である。

 授業では二つの目標を掲げている。「タッチフットボールを楽しめるようになること」と「ラグビー観戦が楽しめるほどにルールを覚えること」である。タッチフットボールとは、タックルや体当たりなどの接触プレーをなくしたラグビーである。タックルの代わりに両手でタッチすればよい。初心者がボールゲームとしての面白さを気軽に味わうことができる。

 いずれにしてもルールの熟達は不可欠であり、ラグビーに特徴的な複雑で曖昧なルールをいかにわかりやすく伝えるかが私の腕の見せ所となる。ラグビーに興味を抱いてもらうためには、数ある反則の一つ一つを説明するような愚は犯せない。そこで、伝えるべきルールを抽出し、十分に咀嚼した上で一つの物語を作ってみようと考えた。そうしてできたのが、ラグビーとは陣取りゲームであり、体当たりやパスを駆使しながら相手陣地の奥深くまでボールを運べば得点が入る。守備側は首から下へのタックルでボールを奪い返す。ただし、「前方にパスしてはいけない」「前方にボールを落としてはいけない」「地面に倒れたらボールを離す」という3つの約束事を守る必要がある。身体と身体のぶつかり合い、滑らかに繋がるパスにその魅力は宿る。

 こうみれば意外にもラグビーがシンプルなスポーツだったことに驚く。これが学生たちにも伝わっていればよいのだけれど。

<10/01/26毎日新聞掲載分>