平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

『身体観測』@毎日新聞

「食べるということ」身体観測第67回目。

本格的に筋力トレーニングを始めたのは日本代表になる直前の23歳の時である。鍛えるべき筋肉を意識してダンベルやバーベルを持つ。栄養学に基づいて正しい食事を摂る。成長ホルモンが分泌される時間帯を見越して十分な睡眠をとる。そうして自らの身体を鍛え…

「東芝、不祥事抱え優勝」身体観測第66回目。

東芝のクリスチャン・ロアマヌ選手がドーピング検査で大麻陽性反応を示したというニュースを知った瞬間、途方もない虚脱感を覚えた。ラグビー界の不祥事に元選手の立場からは他責的なまなざしを向けられるはずもなく、行き場のない怒りと後ろめたさが入り交…

「マイクロソフト杯の展望」身体観測第65回目。

ラグビートップリーグ2008-2009はレギュラーシーズンの全日程を終えた。残すところはベスト4が優勝をかけて争うプレーオフトーナメントのみで、東芝、三洋電機、サントリー、神戸製鋼が激突する。 開幕当初から快調に白星を重ねてきた三洋電機はリーグ終盤で…

「第88回高校ラグビー決勝戦」身体観測第64回目。

第88回全国高校ラグビー大会は、一体感と自由奔放さを兼ね備えた常翔啓光学園が、小柄ながらも骨太なプレーをする御所工・実を下して優勝を収めた。この決勝戦は実に白熱する試合であった。 御所工・実の平均身長は170.7cmで、全国大会出場校の中でも下から…

「ノーサイド精神」身体観測第63回目。

元豪州代表で世界最多の139キャップを持つ、あのジョージ・グレーガンが「ノーサイド」という言葉を知らなかった。さらには、豪州代表監督、南アフリカのテクニカル・アドバイザーなどを務めた経験を持つ世界的な名コーチであるエディ・ジョーンズさえも…

『看過できぬ体罰』身体観測第62回目。

「殴られて両方の鼻の穴から血が出ました」。「髪の毛を引っ張られて投げられたこともあります」。授業が終わった後に学生たちと談笑する中で耳にした話である。男子であっても驚く内容なのにましてや女子である。目が点になったのは言うまでもない。あくま…

「適度な緊張感とは」身体観測第61回目。

「口から心臓が飛び出そうです」と試合前に話すラクロス部員。これから始まる試合のことを考えて緊張している様子が手に取るようにわかる。こんなときにコーチならば気の利いた言葉をかける必要があるのだろうと、自らの経験を掘り起こして何とか落ち着くよ…

「関西学院、快進撃!」身体観測第60回目。

ラグビーは番狂わせの少ないスポーツであると言われる。しかしながら今年の関西大学Aリーグは、多くのラグビーファンの予想を裏切る試合が続いている。関西学院大、同志社大、天理大が3勝1敗で並び、近畿大、立命館大が2勝2敗で続き、1勝3敗で京産大、大体…

「強制終了の無念」身体観測第59回目。

ラグビートップリーグでは昨年度からタイムキーパー制が採用されている。これまでレフリーの判断に任されていたプレー時間の管理を、今ではグラウンドの外にいる専門の担当者が行い、「オンプレータイム」の表示や合図のホーンを鳴らすことで、選手も試合を…

「ノックオン頻発の原因」身体観測第58回目。

ラグビートップリーグが開幕してから3試合が経過した。ここまでの試合展開で気になるのはノックオンの多さである。ノックオンの頻発は何も今年に限ったことではなく、大量の汗をかくこの時期の試合にはありがちな現象なのだが、それにしても目に余る。「こ…

「08年ジャパントップリーグ開幕」身体観測第57回目。

ジャパンラグビートップリーグ08-09が開幕した。今年もまた熱き戦いが始まるのかと思うと、つい気持ちが高ぶってくる。 サントリーサンゴリアスと三洋電機ワイルドナイツとの開幕戦は見応えのある試合であった。昨年度トップリーグ優勝チームと日本選手権を…

「ボルトの余裕に魅せられ」身体観測第56回目。

数々のドラマを生んだ北京オリンピックが閉幕した。振り返ってみれば様々なシーンが脳裏に浮かんでくる。2大会連続で2種目制覇を果たした北島康介の強靭な精神力には感服した。他を寄せつけずに8冠を達成したマイケル・フェルプスには、人類が到達し得る…

「北京オリンピック開幕」身体観測第55回目。

中国が「100年の夢」と位置づける北京オリンピックが開幕した。テレビ画面に映る開会式の様子を眺めながら、「開幕できたんだな」という現実を噛みしめていた。というのは、もしかすると無事に開幕を迎えることができないのではないか、という不安があったか…

「トレーナーの存在」身体観測第54回目。

スポーツ選手にとってトレーナーの存在がいかに大きいかということを、今さらながら実感している。良くも悪くも選手に与える影響力は計り知れない。選手のコンディションを整えることが目的なのだから、当然といえば当然なことではある。 選手は怪我をすれば…

「高圧酸素カプセル」身体観測第53回目。

世界反ドーピング機関(WADA)は、「高圧酸素カプセル」の使用が「酸素供給の人為的な促進」という禁止項目に該当するとの見解を示した。それを受けた日本アンチドーピング機構(JADA)は各加盟団体に使用を控える旨を通達し、日本オリンピック委員会…

「ラクロス部の顧問に」身体観測第52回目。

この4月からラクロス部の顧問になった。私が昨年まで続けてきたのはラグビーであって、ラクロスなどこれまでにしたこともない。大学時代に1度だけ試合を見たことはあるが、正直なところあまり記憶には残っていない。ラグビー一辺倒だった若かりし頃の私の目…

「原初の形態?」身体観測第51回目。

『人間が好き−アマゾン先住民からの伝言−』(長倉洋海)という写真集を開いてみると、インディオの生活風景が生々しく描写されているたくさんの写真が目に飛び込んできた。彼らは狩りをし、飲んで食べて歌って踊り、仲間とたくさんの言葉を交わしながら自然…

「スピード社の水着騒動」身体観測第50回目。

スピード社の開発した新型水着を巡って水泳界は揺れている。今年に入ってからというもの、水の抵抗を最小限に抑えることのできる「レーザーレーサー」を着用した選手が世界記録を次々に塗り替えているのである。この水着を着るか否かで北京オリンピックの結…

「ベテランの苦悩」身体観測第49回目。

スポーツをやっていればやがては引退する時期が訪れる。競技の特性によってその時期はまちまちだとしても、引退は必ずやってくる。「生涯現役」などと嘯いてみたところで老化による競技力の低下に抗えるはずもなく、思い込みとは裏腹に身体はゆっくり熟して…

「ケガとのつき合い方」身体観測第48回目。

大学教員としての生活が始まっている。初回の講義では学生たちに自己紹介をしてもらい、ジュニアスポーツ教育学科の学生ということで、これまでのスポーツ歴についても語ってもらった。 自己紹介を聞きながらに一つ二つ質問する中で気づいたことは、ケガに対…

「体力は数値化できるものなのか?」身体観測第47回目。

今年度から小学5年生と中学2年生の全児童生徒を対象にした「全国体力テスト」が行われる。50m走や反復横跳びなど8種目の実技テストに加えて、生活スタイルや食事、運動習慣についてのアンケート調査も実施され、運動面だけでなく体力を総体的に捉えること…

「『語るスポーツ』へと」身体観測第46回目。

時が経つのは早いもので現役を引退してから1年が過ぎようとしている。引退してすぐの頃は身体の変化が激しく、一時は10kgほど体重が落ちた。捻ったわけでもないのに突然腰痛に襲われて歩けないほどの痛みにもがき苦しんだこともあった。今から思えば、ほ…

「全勝の重圧」身体観測第44回目。

三洋電機ワイルドナイツがサントリーサンゴリアスに敗れてトップリーグ2007の優勝を逃した。リーグ戦では「全勝」という快挙を成し遂げて他のチームを圧倒した三洋電機が、優勝を決める大一番で今シーズン唯一の敗北を喫するという皮肉な結末となった。準優…

「パスは成長の証」身体観測第45回目。

大学院の同級生から声を掛けられたことがきっかけで保育園親善ラグビー大会を見学することになった。今年で13回目を迎えるこの大会には尼崎市を中心に10の保育園が参加し、年中、年長の部それぞれで優勝を競い合う。気ままに動き回る園児を誘導する保育士の…

「レフリーへの敬意」身体観測第43回目。

SCIXラグビークラブの練習はゲーム形式で行うタッチフットを中心に行っており、コーチがそのレフェリーを務めることになる。 実際に笛を吹いていて感じたのは、すべてのプレーを目で確認して裁くのは限りなく不可能に近いということである。明らかな反則であ…

「手を染めた理由」身体観測第42回目。

シドニー五輪の元金メダリストであるM・ジョーンズに実刑判決の厳罰が下された。禁止薬物使用とそれに伴った偽証罪に問われた彼女は、メダルを剥奪された上に6ヶ月間の禁固刑を受けることになった。後に続くアスリートが薬物に手を出さないようにとの抑止効…

「もうひとつの花園」身体観測第41回目。

全国高校ラグビー大会である「花園」は、年末から年始に懸けて1日おきに白熱した試合が行われる。ベスト8が激突する3日にはたくさんの観客が花園に詰めかけて、高校生ラガーの奮闘振りに目を見張る。負ければ二度と同じメンバーで試合することができないとい…

「公正さを保つということ」身体観測第40回目。

国際ハンドボール連盟が、男女ともに北京オリンピックアジア地区予選をやり直す決定を下した。近年のアジア地区予選では中東地域のチームが有利になる判定が横行しており、その事態を鑑みた日本と韓国が改善を唱えた要望書を提出。オリンピック代表国を決め…

「自制の精神あればこそ」身体観測第39回目。

ラグビーのルールは複雑である。たとえばオフサイドという反則はサッカーでは1種類しかないが、ラグビーだと状況に応じて細分化されている。すべてを理解するまでにはそれなりの時間を要する。 だが、試合を観る側からすれば複雑なルールも、選手側からはそ…

「抽選の意味」身体観測第38回目。

先日行われた第87回全国高校ラグビー大会兵庫県予選の決勝では、関西学院と報徳学園が対戦。熱戦を繰り広げるが無情にも引き分けとなり、抽選の結果、関学が全国大会への出場権を手に入れた。引き分けた場合は、多分に運が左右する抽選の結果で花園への出場…