平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「ノックオン頻発の原因」身体観測第58回目。

ラグビートップリーグが開幕してから3試合が経過した。ここまでの試合展開で
気になるのはノックオンの多さである。ノックオンの頻発は何も今年に限ったこ
とではなく、大量の汗をかくこの時期の試合にはありがちな現象なのだが、それ
にしても目に余る。「ここでつながれば」というパスが無情にもグランドに落ち
ればラグビーの醍醐味であるスピーディーな展開は望めず、地域を稼ぐための
キックを用いるという選択肢をとらざるを得ない。

汗でボールが滑りやすくなっているのは理解できる。相手につかまりにくいよう
にと改良された新素材のピチピチジャージもおそらくは原因の一つで、たとえ
ボールをしっかり抱え込んだとしても滑ってしまうのだろう。しかしながら、そ
んな状態であるにもかかわらずボールを落とすことなくパフォーマンスする選手
もいるのだから、昨今みられるノックオンの多さを汗のせいだけにするのは早計
であろう。

ボールを落とすのはおそらく身体の使い方の変化にある。ここ数年のあいだで改
良された合成皮革のボールは手のひらに吸い付くような材質であり、手の平と
ボールの摩擦係数が高いために少々パスが逸れても片手を出すだけでキャッチで
きる。胸の前にボールがくるように身体全体を動かさなくても「キャッチできて
しまう」のである。

さらには、指先の引っかかりが強くなったために、回転をかけたスクリューパス
で長い距離を放れるようにもなった。つまり、ボールの材質が変化したことに
よって強いられる身体運用が、大量に汗をかくこの時期のノックオンを誘発して
いると考えられる。

汗で滑るから仕方がないと考えるのではなく、滑りやすくなったボールをどのよ
うにして扱えば落とさなくなるのかという視点を持てば、どうしてもボールがス
リッピーになるシーズン序盤の戦い方が変わってくるような気がするのだが。

<08/10/07毎日新聞掲載分>