平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

適度な緊張感に包まれること。

さわやかな秋晴れの中でまた1週間が始まった。

土曜日はラクロスの試合が服部緑地補助競技場で行われた。
今年度は1部昇格を目指して戦ってきたものの、
4戦して1勝2敗1分と成績が振るわず。
この日の大阪教育大学との試合に負ければ3部に降格する可能性もあり、親和にとっては何が何でも負けられない試合であった。
結果は9-5で勝利する。前半で6-1と大きくリードしての完勝であった。

この試合で僕自身が気づかされたことがいくつかある。
それをいくつか思いつくままに書いていこうと思うのだが、まずは試合の入り方がとてもいい雰囲気で、キャプテンからの「とにかく思い切り楽しくやろう!」という掛け声のもとに皆がリラックスしていたように見受けられた。

最初、少し遅れてグラウンドに到着した僕はすでにウォーミングアップ中の彼女たちを目に留めながら緊張感の不足を感じ取り、その後も喜々と走り回る彼女たちを見ていて「これはリラックスしすぎかもしれないな」と心の中で感じていた。どうしても勝たなければならない大切な試合であることをもっと意識づけた方がいいかもしれないと思うも、いやいやこのくらいにリラックスしている方がいいんと違うやろかという想いが錯綜して、どうすべきだろうかと思案してみたが、とにかくしばらくは何も言わずに静観することにした。

そうして皆の様子を窺っているとき、ふと気がつけば試合に出る予定のない1回生が楽しそうにクロスでボールをパスし合っている。試合前だというのに緊張感がないではないか、そう感じる指導者の方々もおられるとは思うが、僕はその光景をすっかり微笑ましく感じた。

誰がというわけではなく皆がリラックスすることでチーム全体の空気が緩んでいた。たとえ試合に出る予定がなくても楽しくパス回しができる雰囲気が漂っていたのだから、余計な力みが生じるわけもなくなんだかふわふわした空気感が親和ラクロス部の周りを包んでいたように感じたのである。そのふわふわした空気感は決して浮ついている風ではなかった。

試合の30分前になってベンチに入ってもその空気感は変わらず、それは「おいおいいくらなんでもちょっと緊張感なさすぎちゃうかあ」とコーチの僕が力んでしまうほどであったが、彼女たちの様子を窺えば窺うほどにその気持ちは消えていった。そして試合が始まりスターティングメンバーの12人がグラウンドに入って行った後になって、ふと「たぶん今日は勝つなあ」というなんとなくな実感が心に去来し、たまたま横にいた交代メンバーの一人に「今日は勝つわ」と思わず告げてしまいそうになるも寸前で思い留まる。たぶん、この時に勢いに任せてことばにしていればおそらくは結果が違っていた可能性もあるような気がする。結果は変わらなかったにしろ楽勝という内容はかなりの確実で変わっていたのではないだろうか、なんてことを思ったりもしている。

とにかくホントに勝ってよかったし、確実に成長している彼女たちが勝利の美酒に酔う姿を見るのはコーチ冥利に尽きる。コーチなどと呼ぶには大げさすぎるラクロス初心者の顧問も、いざスポーツになれば現役の頃がフィードバックしてきてついつい熱くなるし、プレーを見ていて気がついた点は積極的に指導したいという気持ちが芽生えてくるのだけれど、この日みたいな試合はできる限りコーチの介入は避けるべきであることが切にわかった。勝利を掴むための「流れ」というのはあくまでも選手たちで作るもので、グラウンドの外にいるコーチ主導のもとに作られることはない。きっかけを与えることはできても「流れ」そのものを作ることはできないわけで、だからこそ試合に出場している彼女たちだけでその「流れ」が作れている時は、たとえ相手のペースに傾きかけたときであってもグッとこらえて静観する方がよい。間違ってもタイムアウトを取るなどして試合に介入しようなんて思ってはいけない。

試合が始まってしまえば監督やコーチが介入できないラグビーというスポーツを経験してきたがゆえに、試合におけるコーチの役割を考えた時にはどうしても一歩引いてしまうという思考の癖があるのは否めない。しかしながら、あの日の彼女たちの試合を見ればやはり選手だけで試合をする方が望ましいと思う。コーチの仕事は、選手たちが憂いなく試合に集中できるように努めることであって、自らが先頭に立って指揮を執ることではないというのがラクロスお気楽コーチとしてこの日学んだことなのであった。


さてさて以下は僕自身の備忘として書いておくことにする。

清々しい気持ちのままグラウンドを後にしたその日の夜はというと、身体運動に関する研究会を主宰されている先生が大阪スポーツ大賞体育功労賞を受賞されたことを祝う祝賀会に参加する。
カニ鍋を囲みながら、体育とは自然科学で証明できるものではなく現象学的な視点から考える必要があり、自分以外の誰かが「なるほど!」と納得すればそれが一つの客観性になり得るという観点から研究を進めていく必要がある。身体運動の世界では未だに科学的なデータや数値が重んじられているが、そうした研究手法では身体を語ることはできないし教えることも難しい。身体知なるものの存在を認めてそこに切り込んでいくことが、身体運動の本質に迫ることを意味する。というような内容のことをM先生からご教示いただいた(たぶん)。話の中に出てきたフッサールやメルロ・ポンティの名前を聞いてさらにテンションが上がり、少しお酒を飲み過ぎて翌日はのんべんだらりと1日を過ごす羽目になったのであった。

最後にラグビーの話で締めくくる。

関西大学ラグビーでは関西学院大京産大に66-0で大勝。
さらには摂南大が大体大に40-3で勝利し、近畿大立命大を17-15で下した。優勝候補とも謳われた強豪が敗れたというよりも、下位チームが勝利を収めたという表現の方がしっくりくる。試合を見ていないので詳しく内容について語ることはできないにしても、明らかに関西大学リーグの力関係は激変したと言えるだろう。各大学の実力が拮抗することで開き過ぎた関東の大学との差が埋まることを期待している。

神戸製鋼コベルコスティーラーズは好調の波に乗る近鉄ライナーズに37-27で勝利。前半が始まって楽勝ムードが漂うも、東芝に善戦した近鉄のアグレッシブな攻撃の前に立て続けにトライを許して前半は19-17の接戦。後半は、これまでの鈍重な戦いぶりを払拭したかのような連続攻撃でトライを重ね、今季初の勝ち点5をゲットした。相変わらずピエーレ(ホラ)のプレーには魅せられるなあと、試合を決したドロップゴールを惚れ惚れしながら眺めていたのであった。