平尾剛のCANVAS DIALY

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「全勝の重圧」身体観測第44回目。

三洋電機ワイルドナイツサントリーサンゴリアスに敗れてトップリーグ2007の優勝を逃した。リーグ戦では「全勝」という快挙を成し遂げて他のチームを圧倒した三洋電機が、優勝を決める大一番で今シーズン唯一の敗北を喫するという皮肉な結末となった。準優勝8回を数え、未だ単独優勝を経験したことがない三洋電機にとっては、是が非でも勝ちたかったに違いない。

リーグ戦での戦い振りが際立っていた三洋電機はなぜ負けたのか。トニー・ブラウンの巧みな試合コントロールには誰もが舌を巻き、ディフェンスの堅さには定評があった。だからこそ2003年のトップリーグ創設以来どのチームも成し遂げられなかった全勝を達成できたわけだが、この「全勝」が三洋電機の優勝を阻む遠因になったと思われる。

今年度のトップリーグから、まず全14チームの総当たりであるリーグ戦で順位を決定し、その後に行われる上位4チームによるプレーオフトーナメントの結果で優勝が決まることになった。リーグ戦を1位通過した三洋電機にとっては、プレーオフトーナメントでの勝利は至上命題となる。負けてもともとだと挑戦者の立場でいられる他の3チームとは対照的に、三洋電機は勝たなければならない王者の立場に立たされる。ただでさえ大きいその重圧に、「全勝」という事実がさらに重くのし掛かかり、「ここにきて負けることは許されない」という心理的な重圧が選手の潜在意識に芽生えた。それがプレーの固さを生み、たくさんのハンドリングミスを犯すことにつながったのではないだろうか。

強風が吹き荒れるという天候条件や足場の悪いグランドコンディションが、セットプレーの強いサントリーに味方したのは確かである。しかし、三洋電機が負けた一番の要因はそれではなく、勝ち続けたがために生じた心的抑圧にあったと私には思われる。その呪縛から解き放たれる日本選手権での巻き返しに、大いに期待している。

<08/02/26毎日新聞掲載分>