平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

あっぱれ!三洋電機ワイルドナイツ。

第45回を数えるラグビー日本選手権大会は三洋電機ワイルドナイツが勝利した。

現役の頃にライバルチームとして目の敵にしていたこともありアンチサントリー的立場から抜け出せずにいる僕にとって、サントリーを破っての勝利という結果は好ましいことこの上ない。

しかしながらこのような大人げない見方から得られるものは実に乏しく、そんな見方をしている自分もあまり好きではないから、必然的に内容のあれこれについて書きたくなってしまう。

ラグビーの今シーズンを締め括る試合としてはとてもエキサイティングだったように思う。試合を通じてボールがよく動いたことがそれを物語っている。

モールやラックサイドを執拗に攻めることも一つの戦略で、この試合でもところどころでサントリーがしてみせた通りそれはそれで効果もあるのだけれど、観ている側はあまり興奮することはできない。

確かに、縦に長く伸びた整えられたモールを見ると「すごいなあ」と感じる。

モールを形成している選手個々の身体感覚はおそらく敏感に研ぎ澄まされており、互いの息づかいを感じながら前に前に進んでいるのであろうと思われるからだ。

「思われる」という表現を使ったのは、僕がバックスだったのでモールを経験したことはほとんどなくあくまでも推測でしかないからである。

逆に言えばフォワードの選手にとっては力の見せ所にもなるモールなんだけれど、あまりに一辺倒になってはオモシロくないよな、とバックスの僕は思ってしまう。

ラグビーの歴史を振り返ればこれまでに何度もルール改正が繰り返されている。

そのルール改正は「ボールがいかに動くか」という方向性で為されてきた。

1992年のルール改正でトライが4点から5点になったのは、ペナルティ(相手の反則)を得ればすぐにPG(ペナルティゴール)を狙うという、観ている側にはあまり面白くない「あまりボールが動かないラグビー」からの脱却という狙いがあった。

PGが決まれば3点。それに対してトライが4点では、リスクを抱えてトライを目指すよりもPGを積み重ねた方がどう考えても無難な選択である。

とくに勝利しなければならない国際マッチなどではとにもかくにもPGを狙いがちとなるのは仕方がないところであろう。

事実、当時のラグビーはそのように展開していたのである。

歴史が示す流れからすればモールは好ましくないと言ってもいいかもしれない。

だからといってそれだけの理由でモールを否定するわけではもちろんない。

モールでのせめぎ合いも、これまた素晴らしいと僕は思っている。

僕が言いたいのは「ボールを動かす」といった志向性を伴うモールであって欲しい

ということなのである。

あらゆるオプションの一つとしてのモールであって欲しいのだ。

スクラムやモールでの50cmがバックスにとっての2mや3mになることは経験的に知っている。それほどにフォワードの頑張りが試合全体に与える影響は大きい。

このことから窺えるのは、スクラムやモールでのフォワードの奮闘がなければ効果的にボールを動かす(たくさんのパスを繋ぎながら前進する)ことはできないということである。

「モール」か「ワイドな展開」か、もしくは「フォワード」か「バックス」かと言った二者択一的な視点ではなく、両者が絡み合うような展開こそがラグビーというスポーツが志向する「ボールを動かす」ということではないだろうか。

今日の三洋電機ラグビーを清々しく感じたのは、フォワードバックスが渾然一体となってグランドを縦横無尽に駆けめぐったからだと思う。

密集での攻防でフォワードが踏ん張り、ワイドに展開する場面ではバックスが走り、ともにオフロードパスを繋ぎながらゴールラインを目指した。

キックディフェンスの安定感もそうだし、飛距離のある効果的なキックを多用したゲーム運びのうまさにもこれまたワクワクした。

ついでに言うとチーム創設から48年を要しての初優勝という事実も勝利を盛り上げることとなった。

今シーズンの最後に素晴らしい試合を観ることができて、一ラグビーファンとしては誠にうれしい限りである。

なぜだか身体観測の掲載を一つ飛ばしてしまっていて、その飛ばしていた第44回目分がマイクロソフトカップ三洋電機について書いたものだったので、それと合わせて読んでいただければ有り難く思います。

それではおやすみなさい。