平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「強制終了の無念」身体観測第59回目。

 ラグビートップリーグでは昨年度からタイムキーパー制が採用されている。これまでレフリーの判断に任されていたプレー時間の管理を、今ではグラウンドの外にいる専門の担当者が行い、「オンプレータイム」の表示や合図のホーンを鳴らすことで、選手も試合を観る者も試合時間の経過を正確に把握できるようになった。

 

 ラグビーでは負傷者を運び出したり交替選手を入れ替えたりする際の時間は競技時間に含まれない。一昨年までは、こうした試合中の空き時間になる度にレフリーが自らの腕時計を止め、あくまでもオンプレーの総和として前後半80分を計測していた。だから、競技場にある時計やテレビ画面に映る時間表示はあくまでもランニングタイムであり、最も興奮が高まる試合終了の瞬間はレフリーだけしか知り得なかった。

 しかし今は違う。試合終了の時がくれば競技場にはホーンが鳴り響き、その後プレーが途切れた途端に容赦なく試合は終わる。なので、得点で優位に立っているチームは試合を終わらせようとしてホーンが鳴ると同時にボールをタッチの外に蹴り出すことが多い。実のところ、あの尻すぼみなノーサイドにはいつも拍子抜けしてしまう。

 ロスタイムが何分あるかわからなければ最後まで気を抜かずにプレーすることが求められる。だが、終了時が明確になれば「残り時間」の計算ができるようになり、時間の浪費が可能となる。時間を潰すための打算的なプレーが続いた挙げ句の強制終了が多発し、それにどうしても馴染めないのである。

 現役当時、後半40分の経過を指し示した競技場の時計を確認してからはプレーが途切れる度にレフリーに視線を向けてその仕草から試合終了の瞬間を嗅ぎとろうとしていたのがふと頭を過ぎる。おそらくは観客も感じていたであろう、今か今かと待ち侘びていたときのあの期待感が、今となってはとても懐かしい。

<08/10/21毎日新聞掲載分>