平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「ラクロス部の顧問に」身体観測第52回目。

 この4月からラクロス部の顧問になった。私が昨年まで続けてきたのはラグビーであって、ラクロスなどこれまでにしたこともない。大学時代に1度だけ試合を見たことはあるが、正直なところあまり記憶には残っていない。ラグビー一辺倒だった若かりし頃の私の目には、「その他のスポーツ」としてしか映らなかったのであろう。それがまさか十数年後に関わることになろうとは面白いものである。

 コーチではなくあくまでも顧問なので、技術的な指導は端から期待されてはいない。親和ラクロスは伝統的にコーチを置かず、新入生の育成から練習メニューの組み立てまでの活動全般を学生たちが自主的に行ってきているので、顧問は練習場所確保のための書類に判子をつくなどの事務的な仕事が主になる。と当初は聞かされていた。ならば門外漢の私にでもできるだろうと二つ返事で引き受けた。

 しかし、たまに練習に顔を出し、学生たちが嬉々として走り回っている姿に触れると、元アスリートとしての血が騒ぎ出した。練習を眺めているときに、ふと身体の使い方がラグビーに似通っていることに気が付くと、黙って見ていられなくなった。クロスを持つことによってどの動きが制限され、どのような動きが有効なのかについてはもっと踏み込んで考える必要があるにしても、同じゴール型の競技であるからには本質的に身体の使い方にはそう大きな違いはない。特に「相手を抜き去る」プレーは現役時代に得意としていたところで、自分自身の経験から得た知見を話すこともできる。その上、近年になって研究を始めた武道的な動きを落とし込むこともできよう。そう確信してからというもの、必然的にコーチとしての立場を意識するようになった。

 週に1度のお気楽コーチは、まだまだ学生からラクロスの何たるかを教えられてばかりいるが、身体の使い方を何とかして伝えようと心の中では密かに意気込んでいる。

<08/07/01毎日新聞掲載分>