平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「もうひとつの花園」身体観測第41回目。

全国高校ラグビー大会である「花園」は、年末から年始に懸けて1日おきに白熱した試合が行われる。ベスト8が激突する3日にはたくさんの観客が花園に詰めかけて、高校生ラガーの奮闘振りに目を見張る。負ければ二度と同じメンバーで試合することができないという緊迫感を背負っての試合振りからは、持てる力を出し切ることの尊さを教わり、いつも背筋が伸びる。ふと高校生だった頃を思い出して、予選で敗退した悔しさが甦ってきたりもする。

日程の合間を縫って、2日と4日には全国ジュニア・ラグビーフットボール大会が行われている。学校単位ではなく、ラグビースクールも含めた都道府県ごとの選抜チームが出場するこの大会は、ジュニア世代の健全な育成を目指しており、全国大会のない中学生にとっては一つの憧れになっている。昨年コーチする機会に恵まれた千葉県スクール選抜の選手たちが出場すると聞いて、花園に足を運んだ。

「花園」の活気と比べれば競技場内は閑散としている。だが、グランド内では熱のこもった試合が展開され、それを見つめる選手の家族と思しき面々の歓声が沸く。ほぼ身内で固められた観客席からのまなざしは我が子のみならずチーム全体に注がれていて、まるでグランドにいる選手全員を見守っているようである。敵味方の区別もほとんどなく、勝利への過度な執着もない。ここ数年は鎬を削る社会人ラグビーに慣れ親しんできたせいか、そんな柔和な雰囲気がとても心地よかった。

千葉の選手たちは少し緊張した面持ちでグランドに出ていく。とにかく仲が良くて、ニコニコ楽しそうな表情で練習していた彼らの表情がやけに大人びてみえた。いつもは感じることのない緊張感を味わい、試合のない中日には「花園」の盛り上がりを間近で見て肌で感じる。ラグビー道に踏み出したばかりの中学生は、こうした経験を一生忘れることはないだろう。

<08/01/08 毎日新聞掲載>