平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

東福岡の勝因と「SCIXラグビークラブが育んでいるもの」。

第87回全国高校ラグビー大会は東福岡の優勝で幕を閉じた。
地域支配率では伏見工業に大きく劣りながらも、執拗な攻撃を阻止し続けたあのディフェンスは素晴らしいの一言に尽きる。
ボール保持者に複数のタックラーが群がり、倒した後もしつこくボールに働きかけて、東福岡は伏見工業フィフティーンにプレッシャーをかけ続けた。ラック形成後もスキあらばターンオーバーしてやろうとする姿勢を崩さず、それでいて見切りも早かった。
個々のタックルもさることながら、きちんと整備されたあのチームディフェンスには感動すら覚えるなあ。

そのプレッシャーを受けながら、逆転を狙って何度も何度も攻め続けた伏見工業のアタックも素晴らしかった。雨の影響からグランドコンディションが悪く、ボールが濡れているにもかかわらず果敢に展開するひたむきさはホントかっこよかった。

これほどまでに熱のこもった試合には生半可な試合評は必要ないと思うのだけれど、ちょっとだけ言わせてもらえると、この試合を分けたのはやっぱり「オフロードパス」だと思う。

東福岡の選手の方がタックルを受けた後のボディコントロールがうまく、なかなか倒れずに踏みとどまりながら細かなパスをつないでいた。
対する伏見工業は、選手一人一人のコンタクトは引けを取らないものの、タックル後はすぐにラックを形成しようと自ら倒れこむシーンが多く見受けられた。

タックルした後に細かなパスをつながれてしまうと、ディフェンスは的を絞れなくなり、徐々に出足が鈍る。つまり相手を「受けて」しまう。
だが、ボール保持者がパスをしないとわかっていれば、ディフェンス側は躊躇することなく狙いを定めることができる。

最終的にこの違いが勝敗を分けたと思われる。

後半の終盤は圧倒的に伏見工業が攻め続けた。にもかかわらずトライを奪えなかったのは、伏見は東福岡のディフェンス網の中でもがいていたからである。
ここまでの戦いから、伏見は、相手プレッシャーを受ける中で、つまりはゲインラインの後方でパスを回すしかない状況に追い込まれていた。たとえ一人目のタックルを外せたとしても、二人目がためらうことなくタックルに入ってくるために、狙いを定められているというプレッシャーをボール保持者は「受ける」。そうすると、オフロードパスを試みる余裕すらもなくなり、ボールをキープすることを第一に考えてしまってすぐにラックを作ろうとしてしまう。手堅いプレーを選択すればするほど相手のディフェンスは勢いを増していくといった負の連鎖に絡めとられたがゆえに、まるで壁のようなディフェンスを突破することができなかった。

個人技に優れた選手を中心に、派手なアタックでここまで勝ち上がってきたと思われていた東福岡が、ディフェンス力を発揮して初優勝を飾った。そのディフェンス力は、自分たちのチームがオフロードパスを積極果敢に試みていたことの帰結ではないだろうか。アタックの際に、オフロードパスの有効性が肌感覚に刷り込まれていたことで、ディフェンスのときにもそれが生きた。相手チームにオフロードパスをさせないようなコース取り、タックルの仕方、そういったものが自然と身についていた。

ふと思いついたことだけれど、それほど的を外していないような気もする。
何はともあれ、ものすごくエキサイティングな試合であった。
いやー、やっぱりええなあ、ラグビーは。
引退してからというもの、どんどんラグビーがオモシロくなっていっているのが誠に不思議で、あれこれ考え出すとどうにも止まらなくなる。あまり何にも知らないままにラグビーしていたんやなあと、自分自身の無知に気付くこともあって、ということはつまり、ラグビーに詳しくなくてもプレーできてしまうということで、こういったことも思考を巡らすにはオモシロい題材となる。

それはつまり現役時代に想像していた以上に教えることがオモシロいってことなんだろう。当たり前に感じていたプレーは、ある程度はことばで把握しておかなければ伝えることは難しい。だからあれこれと考えてしまうということなんやろうねえ、きっと。

っと、そういえば一つ告知。
SCIXラグビークラブのホームページ上にコーチ対談の様子がアップされてます。
「SCIXラグビークラブが育んでいるもの」というテーマで武藤コーチと語っておりますので、もしよろしければ覗いてみてください。

「スポーツNPO SCIX」
http://www.scix.org/
「SCIXラグビークラブ」
http://www.scix.org/rfc_index.html