平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「不祥事の影響」身体観測第79回目。

 ラクロス部の打ち上げに参加したときのことである。ぞろぞろと店内に歩みを進める学生たちに対して、店長と思しき人物が入り口で一人一人に学生証の提示を求めている。どうやら年齢確認をしているようである。未成年者はこちらのテーブル、そうでない者はあちらのテーブルと、ほぼ機械的に選り分けられていく。最後に店に足を踏み入れた私はこうした応対をせざるを得ないことの承諾を求められ、半ば腑に落ちない気持ちながらも渋々了承した。

 未成年者飲酒禁止法の改正に伴い、酒類を提供した側の罰則規定が強化されたことはもちろん知っている。だからといってここまで杓子定規に対応する必要があるのかどうかは甚だ疑問である。

 これと似たような話を別のところから聞いた。ある大学ラグビー部での打ち上げでは、一目で未成年だとわかるように腕に赤いリボンを巻くようにしているらしい。店に迷惑をかけないようにと学生たちが自主的に行っているのだという。大学スポーツ界に不祥事続きの昨今を慮れば模範的な行為に違いはない。しかしながら、あまりに優等生過ぎる対応振りに得体の知れない一抹の不安を感じるところもあり、複雑な心境である。

 この話には続きがある。体育会には、後輩は先輩にお酒をつぎにいかねばならず、それに対する何倍ものご返杯もきっちりいただかなくてはならないという慣習が往々にしてある。だから大概は後輩から先に酔い潰れていく。しかしこのクラブでは、赤いリボンを免罪符にした後輩から酒をつがれ続けて、先に先輩が潰れるというのである。後輩が嬉々として先輩に酒をつぎにいく様子を思い浮かべて、違和感を覚えるのは私だけだろうか。

 時の流れとともに常識や慣習は変化していくものである。それにしてもあまりに劇的な変わり様に、どうにも窮屈さが感じられて忍びない気持ちになる。

<09/08/25毎日新聞掲載分>