平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

ラグビーを教えるってことは。

今日は朝から研究室に来る。年明け早々、スキー指導者研修会に行ってたものだから、明日から始まる授業の準備や3月に控えている学会での発表要旨がまったくの手つかずだったのである。研究室に到着してすぐは散らばったままの書類を片付けたり、メールの返信をしたりしてなかなか予定の仕事にかかれなかったので、結局この時間までかかってしまった。仕事というものは自分が思い込んでいる量よりも5割増しくらいだと考えておいた方がよい。つまり時間には余裕を持たせておかないといけないということだ。

ってなことはとっくの昔にわかってはいるのだけれど、いつのまにか忘れてしまってにっちもさっちもいかなくなる。ま、だいたいがこんなものか。

この土曜日は、学生を連れてホームズスタジアムに足を運ぶ。「ラグビー」の授業の一環として、神戸製鋼コベルコスティーラーズvs東芝ブレイブルーパスの試合を観戦したのである。

ラグビーというスポーツはルールが複雑である。それゆえに素人さんには敬遠されがちなのであるが、意外にもシンプルなスポーツであることを教える立場になってからわかった。要は、陣取りゲームなのである。相手の陣地の奥までボールを運んで地面にたたきつければ得点が入る(トライ)。それだけなのである。相手をステップでかわしてもいいし、ぶち当たって強引に突破してもよい。ボールを持っている者はドリブルなどの制限もなく自由に走り回ることができる(ランニング・ウィズ・ザ・ボール)。

その際に憶えておかなければならないルールは主に2つ。前にボールを落としてはいけないのと(ノックオン)、前にボールを投げてはいけない(スローフォワード)。この2つを守りながら攻める側はひたすらに突進を繰り返し、走り回る(守る側は首から下へのタックルと、腕で相手をつかむようにして体当たりすることで前進を阻む)。

ラグビーというスポーツを全く知らない人であっても、ペナルティにつながる複雑なルールはレフリーの判断に従っておけば、この2つのルールだけを頭に入れておけば楽しめるだろうと思う。願わくばラグビー経験者と一緒に観戦することをお勧めする。観ているときに気になった疑問点はまっすぐその人にぶつければよいのである。そうしているうちに間違いなくラグビーというスポーツの虜になる。僕はそう思う。思い込んでいる。

と言いつつも、やはりある程度のルールは理解しておく方がより深く楽しめるのは事実である。なので段階的にルールを理解していくことが必要となるが、「段階的に教えること」がなかなかに難しい。いきなり「ノット・ロール・アウェイ」や「コラプシング」などの説明を聴けば、うんざりしてしまうだろう。それを考えれば、どのルールから教えればいいのかとても迷う。

と、ここまで書いてわかったのだが、たぶん、ルールのひとつひとつを説明するよりも、試合の流れを把握することがまずあるのだと思う。攻める側はトライを目指して前進を図る。守る側はタックルで前進を阻む。で、地面に倒れたらボールは放さなければいけない。地面に置かれたボールはイーブンボールとなり、そこでボールの奪い合いが起こる(争奪局面)。この争奪局面では細かくルールで決められているが、これは追々理解していくことにして、とにかくこの局面(たくさんの人が倒れたり押し合ったりしている)で双方の選手たちはカラダをぶつけて奪い合っている。で、ボールを確保した側がまたさらに前進を図るべく走ったりキックしたりパスをする。

つまりはこういうことであって、ただこういうことなのだ。

観戦した学生たちがどこまで理解を深めたのかはわからないが、とにかく楽しんでくれていたようでホッと胸をなでおろしている。試合を観ているときに「なんで蹴ってばっかりするんですか」という学生が何人かいたけれど、さすがにスポーツ経験者だけあるなあと感心した。その通り。下手なキックはただ相手にボールを渡すだけ、つまり攻撃権を相手に献上することになる。キックはあくまでも陣地を稼ぐためのものであり、トライをとるにはパスをつないで前進を図る以外にはない。そのことをおそらく学生たちは直感的に感じとったのだと思う。神戸製鋼OBとしては耳の痛い話であるが、彼女たちの先生としてこの発言はうれしい限りであった。

首から上の危険なタックルはダメですよ、タッチキックに関して、ペナルティのときだけはボールを蹴り出した方のボールになりますよ、22mラインの内側からはダイレクトタッチでも構いませんよ、モールというおしくらまんじゅうはゴール前では大きな武器ですよ、てなことをワイワイと話しているうちに90分が過ぎたような気がする。あまり詰め込み過ぎないようにしたつもりだが、興が乗ってついつい話し過ぎた気もするし、どうだろう。

また来年も観に来ようと思った。

さて、そろそろ暗くなってきたので帰路に就くことにする。
すずらんの湯」にでも寄って帰るか。