平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「SCIXって?」身体観測第29回目

現役を引退してからはスポーツNPOであるSCIX(シックス)の仕事に携わっている。SCIXとは、Sports Community & Intelligence Complexの頭文字を組み合わせた略称で、地域スポーツの普及を目的とした非営利活動法人のことである。主たる活動内容はラグビークラブの運営であり、中学生から社会人までの幅広い年齢層の選手らが集まって週に2回ほど練習を行っている。学校や職場の違う者同士が気軽に足を運ぶことができ、ラグビーの楽しさに没頭できる場となっている。

日本では地域スポーツという概念が極めて希薄である。愛着を込めて甲子園と呼び世間の耳目を集めている「全国高校野球選手権大会」を始めとする、各スポーツにおける学校対抗の大会。そして、プロアマ問わず、企業が抱えるスポーツチームが出場して行われる大会などが全国津々浦々で行われており、ざっと見渡せば、ここ日本では学校スポーツや企業スポーツという形態が主流であることに気付くはずである。勝利を目指して各チームが鎬を削り合う白熱した試合は見ていて興奮するものだが、勝利至上に傾き過ぎたときに見え隠れする個々の虚栄心やチームの恣意性には思わず目を塞ぎたくなる。

SCIXラグビークラブには、進学校の特進クラスに所属しているがために、通っている学校の部活に入れなかった生徒も所属している。スポーツをしたいと思っても、学校や会社からの制約に縛られて思いが叶わないのはいかがなものか。また、ふとこれまで未経験なスポーツに取り組みたくなったとしても、熟練した経験者ばかりのチームへ加入するには相当の思い切りがいるに違いない。

より高度な技術や勝利を求めて乾坤一擲に打ち込むスポーツがある一方で、もっと単純に楽しみだけを追求するスポーツがあってもいい。スポーツだけで繋がるコミュニティの創造に、私たちはもっと積極的になってもいいと思う。

<07/07/24毎日新聞掲載>