平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「身体との向き合い方」身体観測第31回目

スポーツ界では、競技を問わず試合や練習後には当然のようにアイシングを行う選手が増えた。というよりはほとんど慣習化している。一昔前の野球界でまかり通っていた「投手は肩を冷やしてはいけない」という信憑はすでに風化しつつあり、試合後の会見に臨む高校球児の肩には氷の詰まったアイスバッグがグルグル巻きにされている。かく言う僕も、現役時代は毎練習後には両足首に氷を巻き付けて入念にアイシングを行っていた。できるだけ疲労を残さないようにと躍起になっていたのである。

また、ケガに対する処置という面でもアイシングは重宝されている。SCIXでは、グラウンドの傍らに大量の氷を蓄えたアイスボックスを用意しており、選手がケガをした際には素早く受傷箇所をアイシングできるように準備している。患部を冷やせば血管が収縮し、必要以上の内出血を防ぐことできるために、患部が腫れるのを最小限に食い止めることができる。冷やして腫れを抑えれば早期回復が期待でき、また痛みも和らぐのでまさに一石二鳥なのである。

しかし、先日目にした新聞記事によれば、全国高校野球大会に出場している佐賀北高校野球部の投手陣はアイシングを行っていないという。むしろ血流を良くするために投球後は軽いランニングを行っている。また、昨年度の同大会で早稲田実業の選手が積極的に活用していた高気圧酸素カプセルも、耳鳴りを訴える選手がいたり、あまり効果が感じられなかったという理由から利用していない。

アイシングも身体をケアする一つの方法ではあるが、スポーツ科学の発展に従い総じてケガをする選手が減ったとは言い切れない現状では、たとえ科学的根拠に基づく行為であっても、身体に合わないと直観すれば忌避するべきであろう。「いろんな理論があってもいい」という監督の指導方針から、身体への向き合い方を再認識させてもらった次第である。

<07/08/21毎日新聞掲載>