平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

「狙いはトライかPGか」身体観測第34回目

フィジー戦の健闘ぶりから微かな期待を抱かせたウェールズ戦に、ジャパンは為す術なく大差で敗れた。しかし、ジャパンに辛うじて勝利したフィジーウェールズを下して決勝トーナメントへの出場を決めたのだから、勝負はやってみなけりゃわからない。

ジャパンにとって今大会最終戦は、ランキング上位のカナダとの試合。だが、終了間際に同点に追いつくというエキサイティングな試合展開で、値千金の引き分けを呼び込んだ。勝利を手にして欲しかったのは言わずもがな。しかし、負けなかったということは評価に値しよう。4年後の大会に望みをつなぐ貴重な引き分けだった。

その上で敢えて苦言を呈すとすれば、残り5分を切った時間帯に得た相手ゴール前でのペナルティ。このとき点差は7点。1トライ1ゴールで同点となる点差である。ジャパンはこの場面で、決まれば3点のPGを狙わずにスクラムを選択し、果敢にもトライを狙いにいく。結果的にはこの選択が功を奏して劇的な結末を生むわけだが、もし勝利にこだわっていたのであればここはPGを狙うべきであった。
 
残り時間を使い切ってトライを取り、ゴールが決まっても同点止まり。しかし、PGが決まれば、1プレーで逆転可能な4点差になる。つまりこのペナルティは、同点でもよしとするのか、もしくは勝利にこだわるのかという意志によって決断が分かれる転轍点だったのであり、残り時間がわずかで可能性は低かったにせよ、あくまでも勝利を目指して欲しかったというのが僕の本音なのである。

一つのミスが命取りになるという重圧をカナダが背負い、地元フランスで人気を博するジャパンを観客の声援が後押しすれば、いかような結果になったのだろうか。「たられば」を言い出せば切りがないが、プレーが切れている状況での判断だけにどうにも惜しい気持ちが募ってくる。

<07/10/02毎日新聞掲載>