平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

ラグビー仕様の身体へと。

肌寒くなってきたこの季節になると途端にラグビー体質になる。
リップクリームが欠かせなくなるほどの乾いた空気の匂いに触れると、身体のスイッチが入ってラグビーモードに突入する。
ラグビーシーズンの入りを身体が憶えているのである。

引退しようがしまいが、そんなことは身体にとってお構いなしなので、ここんところはなんだか常に高ぶっている…ような気がする。いや、たぶん気のせいではなく、長年のあいだに染み込んだ身体知なのであろう。
それにしても、あまりに身体が忠実であることに感心してしまうのであった。

まあ数年もするうちに新しい環境に慣れて、また新たな身体知ならぬ「構え」が形成されるような気もするけれど、なんせ青臭い10代の頃から続けたラグビーだから秋口になればまたフッと気持ちが高ぶるかもしれない。ていうか、いつまでも高ぶっていたい。いや高ぶっていよう。うん、そうしよう。

なんせ引退してから初のシーズンを迎えたわけである。
今も部屋ではNECヤマハの試合を流しながらこれを書いているのだけれど、不思議に未練とか寂しさはなく、おそらくそれは今でもラグビーに関わっているからこそなのだなと、今日のシックスの練習を振り返ってみてそう思う。
教えることは本当に楽しい。とても難しいけれど楽しい。
自分がプレーするよりも楽しいかもしれない。でも、できるならば自らもプレーしながらに教えたいのが正直なところだが、もう一線級ではやりたくない。
ってなことを言いつつ、できないからいいんだけど。

絶対に落とせない試合の前夜にはそわそわし、試合日に目覚めると自らを奮い立たせて試合会場に向かい、気持ちが高揚したままに試合に望む。
こうした緊張感を味わうからこそ、勝利した実感はまた格別なのだけれど、試合が終わってホッとする気持ちもなきにしもあらずである。
試合が終わればまた次の試合があるわけで、心は既に次に向いていく。
試合後に疲労を溜めないようにとプールに入ってリカバリーしていると、ついさっき終わったばかりの試合よりも次の試合のことに意識がいく。
これって当然なんよね。だって、次の試合を意識するからプールに向かうわけなんだから。

カラダのケアはプロスポーツマンにとって必要不可欠のことで、それに対して今さら難癖を付けるわけではないんやけど、あまりに合理的に考えて「次、次」ってなると、しんどくなるんだな、これが。
競技スポーツの宿命と言えばそれまでなんだけど。

シックスで中学生、高校生と一緒にタッチフットをしていると、彼らが無心にプレーしている姿に伝染してしまって、こっちまで夢中に走ってしまっている時がある。ある程度動けるうちは自らのプレイを見せておきたいという気持ちがあるから、意識的に本気でステップを踏んだりすることはあるんだけれど、流れの中でプレイするうちにのめり込んでしまって、プレイし終わってフッと我に返るのだ。
ええおとなが情けないと言えばそれまでで、突っ込まれればすんまへんとしか言えない。でもたぶん、これからもこの調子で指導に当たると思う。

彼らにはロクにラグビーを教えていないにもかかわらず、僕は彼らからラグビーの楽しさを教えられている。こんな指導者がいてもいいのだろうかとも思うが、実際にここにいるのだからいいのであろう。いや、いいのである。

さて、明日は高校生の試合で京都は西京極に。
第三回クラブユース交流試合で福岡ユースクラブと対戦する。
なんと、神戸製鋼コベルコスティーラーズvs九州電力キューデンボルテクスの前座での試合で、プレマッチミーティングや試合後のアフターマッチファンクションまで、トップリーグでの試合を模して行われるために、高校生にとってはとても貴重な体験になることと思う。
しっかりと楽しんでプレイをして欲しいと願っている。

といううわけで明日の朝は早い。もう寝ることにしよう。