平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

気にしない、気にしない、気にしないー♪(一休風)。

ここんところ妙なほどに解放感を感じている。
修論を提出したことと口頭試問を終えたことが多分に影響しているのは目に見えているのだけれど、取り組むべき課題を終えた時に感じられる心境とはまた違ったもののような気がして、なんだか不思議なのだ。

いやだなーと感じる仕事を終えたときの「終わったー」という感じとか、
一昔前の走り込みを意味するフィットネス練習を走り終えた感じとか、
「しんどいけれどやらなアカンこと」を乗り越えたときのあの達成感は一過性のものであって、どうも継続性に乏しい。
やり切ったことをいつまでもニタニタしながら思い出すなんてことはしない。

この解放感はそんときの気持ちと似て非なるものなんよねえ、なんだか。

修論を仕上げる段になってから各方面からのお誘いを極力お断りしていた。
ある程度の時間、部屋に籠もらなければ書き上げることができないと思っていたので、少し余裕を持たせてのスケジューリングを心掛けていた。
「この日やったらまだ余裕があるから飲みに行っちゃう?」なんてことを思っても、「やっぱやめとこ。やらなアカン気がするわ」と打ち消す。
そうやってどんどん引きこもる生活が続いていたのだけれども、結局、飲みに行かなくても部屋の中でまったく関係のない本を読んだり、録画しっぱなしだったあれこれを見たりとしていたこともあったから、今から思えば飲みに行ってもよかったような気もするし、でもやっぱり行かなかったからよかったような気もするし。
そのあたりは、どうなのかようわからんけれども。

でもたぶん、単なる時間的なものではないんやと思う。
時間的に考えて飲みに行けたかどうかはあとになってみて初めてわかることであって、誘いを断る時点ではいっぱいいっぱいの状態なのだ。

ひらめくかどうか、理路が開かれていくかどうかは、時間的な余裕で決まる。
少しでも焦っている状態ではいいものは生まれない。
焦りは一種の「居着き」である。
だから、終わりを決めずにプレッシャーから解き放たれていることが大切となる。
「いついつまでにしなければならない」という気負いがあればあるほど焦る気持ちはとめどなく溢れてくる。
あのドキドキ感は後頭部をジワジワと刺激してくるような感じでちょっと不快だ。
つまり僕は、焦りの呪縛にかからないがために宴へのお誘いを断っていたと思う。

だがしかしである。

〆切というケツを決めなければいつまで経っても完成するべくもない。
「明日にしよう」と投げ出しておいて、いざ明日になれば「明日にしよう」となって、気がつけば時間はあっちゅうまに経過してしまうのだから、ケツを決めることなくして創造は結晶化しない。

うんうん、そうそう、とここまで書きながら頷いているのだが、
冒頭に書いた解放感を表現する方向とはズレてきているのは確実だ。
うーん、なんやろか。

「こうすべきだ、あーすべきだ」などと論じ過ぎたことの影響か?
論理的な思考を繰り返す中で出所を明確に指し示すことができない情報を排除せざるを得なかったことが関係している気もするし、しない気もするし。

いや、多分そうだな。うん、そうに違いない。

記憶というのは曖昧だからこそ応用がきくのだと池谷裕二は言っていた。

もしも写真を撮るようにして目に入るものを正確に記憶しているのだとすれば、服やメガネや髪型が変わっただけでも別人だと認識されることになる。
いつか見たときとは服やメガネや髪型が変わってもそれが同じ人であると認識できるのは、記憶が曖昧だからである。
以前に比べて少々の違いがあっても、それが人物を特定するに当たって障壁にならないのは曖昧に記憶しているが故のことなのである。

脳は曖昧に記憶しようとする。
それに逆らうかのようにインデックスをつけてはっきりと記憶しようとしたことに、身体は反逆を試みたのだな、きっと。
本を読むときには、理路を準えながらしっかりと読むことは必要であっても、情報の出所をいちいち確認しながらしっかりと読むことはあまり好ましくないのだ。

たぶんだけれど、この感覚こそが内田先生の言うところの「身体で読む」ということであり、もしそうだとすれば、メモを取ったりしながらゆっくりと丁寧に読むことはよしとせず、たとえ読みかけの本ばかりが増えたとしてもそれでもOKなんだよと主張している数々の本が世に出回っていることにも、なるほどと頷くことができるよなあ。

へー、そうなのかー。

おっとなるほど!

今、僕が感じている解放感は、現在は論文を意識することなく、気楽な気持ちでさらりと本を読んでいることがもたらしたのだな。きっと。
「そんな意固地になってたら覚えられるもんも覚えられへんちゅうねん」
という身体からの訴えをようやく聴き入れることができたのである。

今日はすっごく納得。うーん、スッキリ。

そんなこんなしてるうちにスーパー14の開幕戦が始まっちゃったぜー。