平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

ハギじい、紙面にデカデカと。

昨日行われた神戸製鋼コベルコスティーラーズ三洋電機ワイルドナイツ(来年度の呼び名はどうなるのかが気になる)の試合は35-52で敗れた。後半残り10分までリードしていただけに、なんとも惜しい敗戦だったなあという想いを引きずったままスタジアムを後にした。試合終了まで5分を切ったあたりのあのPKでショットを選択したという判断が、観ている側としてはとても悔やまれる。あれをタッチに蹴り出してトライを狙いに行ってれば…。うーむ。

この試合の応援にと学長をはじめとした先生方と学生数名で結成された神戸親和女子大学応援団は、敗戦という結果には満足できなかったものの見せ場たっぷりで気合のこもった試合内容を概ね楽しんでくれていたようである。学生たちは試合後に山本大介と林慶鎬、大畑大介らのサインと写真をゲットできたことが特にうれしかったようで、試合後は皆が皆、テンション高めであった。アテンドした僕としては、ラグビーを心ゆくまで楽しんでくれたという事実がとてもとてもうれしい。

と、その前日は大学選手権1回戦が行われ、関西学院大日体大を45-17で下して創部以来の大学選手権初勝利をもぎ取り、母校同志社大流通経済大を31-8で破って3年ぶりに初戦を突破した。両校ともここにきて調子が上がってきているようなので、来週の対戦相手である強豪の法政大、東海大にどのような試合をするのかがとても楽しみではある。近年の大学ラグビーにおける力関係は東高西低であり、選手権の下馬評も関東有利とみる人が大半であるだろうが、勝負はやってみなけりゃわからない。メンタルが不安定であるが故に想像以上の力を発揮する可能性を秘めている学生スポーツは特にそうであるから、僕の期待は心の中で密かに膨らみつつある。

その関学大でFW(フォワード)コーチを務めているのがハギじいである。このブログでも何度も登場している名前なので記憶の片隅にある人もいるかと思うけれども、同志社大学時代に共にプレーした友である。4年前からFWコーチをするようになり、その関係で僕もちょくちょく関学のグラウンドに足を運んでいたのはいつかの身体観測に書いた通りである。今年度、関西学院大がこれほどまでの躍進を見せたのは、監督やコーチをはじめとするスタッフの尽力や2年前から大学側が強化に乗り出して有能な人材を招いたことなど、いろいろな要素がうまく絡み合った結果として為されたのは間違いないのだけれど、その中の一つの要素として大きなウエイトを占めるのは、ハギじいのFWコーチ就任だったんだろうなと僕は考えている。

大学時代、フルバックというポジションで好き放題にプレーしていた僕とは対照的に、スクラムの最前列でチームの屋台骨を支えていたのがハギじいである。ラグビーというのはFWの優劣が試合を決めると言われていて、FWが相手に当たり負けるとその試合に勝てる見込みは限りなく低くなる。学生スポーツに限ればスクラムの優劣は勝敗に直結するほど大切であり、チーム全体が試合開始から勢いに乗っていけるかどうかはスクラムで決まると言っても過言ではない。

大学時代も、卒業してからの社会人時代も、そうして「縁の下の力持ち」をずっとやってきたハギじいは、練習やミーティングで学生たちと対話をする中で彼らの成長を促そうとしていた。もちろん今もそうしている。ふらりと足を運んだある日の練習では、FWを二つのチームに分けてひたすらガチンコでぶつかり合う練習を敢行していたりもしたから、学生たちにすれば厳しい練習を強いるコーチであったはずなのに、プライベートではよく学生たちから声を掛けられて飲みに行ったり食事をしたりもしていたというから(僕もその場に呼ばれて楽しく飲んだこともある)、まさに学生たちと話をする中で信頼関係が築かれていたのだろう。

彼とはちょくちょく飲みに行ったりもする仲だが、ある時にはひざ下の部分を擦りむいてドえらい傷を作っていたことがあった。「どないしたんや」と訊いてみると、「つい熱くなってしまってガチンコのぶつかり合いにおれも参加してしもたわ」と。その言い方が何だかとても楽しげで、本当のところはどうかわからないけれども、現役時代にタイムスリップしたかのような懐かしさを感じていたんだろう。たぶん「教えている」という立場というよりも、学生たちとともにラグビーに関わっているという意識が強かったのではないかと思う。

大学時代をともに過ごして、それ以降もことあるごとくにお酒を飲んだくれながら話をしてきたハギじいのことを、こうして改めて書くのはなんだかとてもくすぐったく感じるのだけれど、30歳を超えてからの転職という経験を共有した僕たちは、考えるテーマが以前にも増して似通ってきている(と僕は思っている)。どこが似通ってきているのかをうまく説明できることはできないが、どこに向かおうとしているのかがわかるというかなんというか。だから、わざわざ会って話をしなくても、たった今もどこかであいつは頑張っているに違いないという確信が僕に大きな勇気を与えてくれる。母校を差し置いて関西学院大を応援するなどという内容のコラムを身体観測に書く気になるくらい関学に肩入れしてしまうのも、つまりのところ彼がコーチをしているからだろうと思う。

そんなハギじいは、この度12月16日に発売された日経ビジネスアソシエに掲載されている(87頁)。どんな奴なのか、どんな顔をしているのかに興味のある人はぜひ手にとってみて欲しい。

紛れもなく僕が全幅の信頼を置く友人である。