平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

お気楽コーチのひとりごと。

今日はラクロス部の朝練に顔を出す。顧問ながらも週に一度のお気楽コーチは、先週に比べて練習の雰囲気がピリリとしまっていることに気がついた。明後日に試合を控えていることが影響しているのかなと思いつつ4回生にそれとなく訊ねてみると、数日前にその試合のメンバー発表をしたということを聞かされた。

なるほどね。どうりでピリッとしているわけだ。

シーズンインした1月の終わりからこれまで行われた練習試合では、Aチームを固定することなくたとえわずかでも全員が出場できるように、幹部たちはメンバリングに汗をかいてきた。「シーズンの早い段階からメンバーを固定すればそれだけチームプレーが深くなり、試合で好結果を残せるかもしれない。だけども、レギュラー以外のメンバーは向上心を失いがちになり意欲が減退してしまう。学生スポーツは、勝利という結果だけを追求するアスリート的なスポーツではないのだから、部に所属する選手全員が何らかの成長を期待できる雰囲気を作るというのをまずは考える必要があるんとちゃうかな」ということをあるときに幹部たちに話したら、彼女たちは深く頷いていた。部全体に一体感を浸透させながらも1部昇格を目指すという矛盾を抱え込み、日がな練習に取り組む彼女たちの姿は実に頼もしく映る。

就職活動や教育実習で数名の上回生が来られない練習が続いているときに、気の抜けたようなイージーミスが練習のあちらこちらで続発するということがあった。そのことをある幹部が重く受け止めて、どうにか練習の雰囲気を変えなければならないとあれこれ考え込んでいた。確かにそのときは僕の目から見ても、キャッチミスやパスミスなどの明らかに集中力を欠いたプレーが散見され、僕としても気合が入るような言葉掛けを試みてみたけれどあまり効果はなかった。そんな状態の時でも幹部はほぼ冷静に下級生たちのことを考えていたように思う。どうにかして「みんな」の集中力を高めようと努めていた。

明後日に行われる交流戦は公式戦である。対戦相手は1部に所属する立命館大学である。これまでは全員が出場できるような環境を作ってきたものの、やはり公式戦となれば実力のある選手がスターティングメンバーに名を連ねるのは当然である。「チームを代表している」というプレッシャーがスタメンには生まれるし、メンバーから外れた選手は自らの実力不足を突きつけられて途方に暮れる。「なぜ私は出られないのか」という問いには自らが答えを宛がわなければならず、しかしながらそのような問いには明確な答えなどあるはずもないから、現実的には自らの足りない部分が容赦なく心に突き刺さる。現在の自分が取り組むべき課題が浮き彫りになる。だから結局のところはその問いを抱えながら日々の練習に打ち込む以外の答えは見つからない。これはなかなかハードな心境である。

今年こそ1部昇格を目指す彼女たちにとっては、1部所属の立命館との試合は自分たちの力を確認することのできるいわば試金石である。その試合に出られないのはやはりツラいことだろう。だが、あくまでも試金石であり過剰にのめり込む必要もない。大目標の試合はまだまだ先なのである。負けたからといってシーズンが終わるわけでもない。格上の相手とやるのだから、ある意味で負けて当然、勝てばラッキーくらいの気持ちでいればよいと僕は思う。たとえ負けたとしてもそれは1部のチームとの実力差がわかるという意味では、これから練習を行っていく上での大きなモチベーションとなるだろう。

今日のようなピリッとした雰囲気の練習の中でプレーすれば確実に上達する。コーチの怒鳴り声が鳴り響くが故の“ピリピリ”した空気ではなく、学生たちそれぞれの心の中に芽生えた試合に出場することへの高ぶりと更なる上達を望む震えが織りなす雰囲気こそ、スポーツをする上での醍醐味である。こうした雰囲気は一長一短でつくられるものではなく、幹部たちが一体的なチーム構築に心を砕いてきたプロセスの上に成り立つものだろうと思う。

週に一度のお気楽コーチは、「教えるため」というよりも彼女たちがラクロスに取り組む姿から「学ぶため」にグラウンドに出ているのではないかと思うときがある。彼女たちがボールを追いかける姿やふとした言動に触発されて、思わず現役時代の心に戻ったりもする。懐かしくもありまた甘酸っぱくもあるのだけれど、だからこそ放っておけなくなるし、言いたいことも後から後から湧いてくる。くどくどと言い過ぎないように気をつけながら、これからもお気楽コーチのぶつぶつ指導は続いていくに違いない。

とにかく明後日の試合が楽しみである。