平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

盆休みの真っ最中、酒場に恋焦がれる。

スポーツ運動学の研究会があると思い込んでいたあの日は僕の勘違いですっかり肩透かしを食らうことになった。脳ミソをフル回転させる準備を整えたので、そのままおとなしく帰路につくことはままならずに三ノ宮で途中下車をしてジュンク堂にぶらりと立ち寄る。そういえば!と思い出して購入した『たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。 』(バッキー井上、140B)を手に、さんちかの【酒房 灘】で枝豆をあてに生ビールを飲んでいるといてもたってもいられなくなり、そのまま街へと繰り出した。最後に行き着いた店は【THIRD ROW】で、いつもながらのラグビー話や世間をにぎわせている某芸能人についての話に耽っているとあっという間に午前様。ふらつく頭をもたげて帰路に着く。

翌日もお酒の日。拙コラムでお世話になっている方と、スポーツの話や大学体育会による不祥事が孕んでいる構造的な問題なんかの話に花を咲かせて5時間ほど日本酒を飲みっぱなし。僕が並々ならぬ衝撃を受けたあの事件は、監督が辞表を提出したと今日の新聞記事に載っていたけれど、部員が組織犯罪に関わっていたという事実からすればそれで幕引きできる問題ではないだろうと思う。“監督辞任”は大学側の責任を果たすという意味でしかない。大学体育会という共同体が現代社会においてどのようなポジションを担っているのかという大問題を明らかにするには、背後にある組織とのつながりを究明する必要があるだろう。ことの重大さをおそらくは当該部員が半分も理解していないことが事態をややこしくしているのだと思う。あー、体育会。

この休みは脱力すると言いながら脱酒というわけにはいかず、なぜにこんなにも酒浸りになったのかはどうしてかというと、盆休みに入ったばかりに『たとえあなたが…』のバッキー井上氏の文章を読んだからである。これは断言できる。バッキー氏の文章を読めば街というところがとても魅力的に輝かしく思えてくるから不思議である。どっか行かなアカンとムズムズしてくるし、いてもたってもいられなくなる(さっきも書いたけれど)。京都のお店について書かれてあるから京都に行きたくなるかといえば必ずしもそうではなくて、とにもかくにも「街」に行きたくなる。そういう風な気持ちになるのは「バッキー氏にとっての京都」に魅力を感じるからで、だから僕にとっての三宮であったり御影であったり青木であったりに足を運びたくなるのである。

「バッキー氏にとっての京都」からは時間の流れがありありと感じられる。若きころに足を運び続けて、だから今があるという街との関係性が、「時間とは取り返しがつかないものである」という当たり前に当たり前なことを僕に思い出させてくれる。街とのつき合いは格好悪いことばかりの積み重ねの上に成り立つということを思い出させてくれる。だから、意味のあることばかりにとらわれている今の自分がとてもダサく思えてきて、こんなことはしてられへんとひとり街に繰り出したりしてしまうのだと思う。

とにもかくにも僕はバッキー井上氏の文章が好きだ。とにかく好きだ。女医さんのあの話はおそらく世界中でバッキー氏にしか書けない。


というわけで、分解されないままのアルコールが沈殿したカラダを引きずって盆は実家に帰った。まだ実家にいる。久しぶりにおかんの手料理を食べて、仏壇の前で手を合わせて、他愛もない話に家族3人で笑いながら過ごすうちに盆は無事に過ぎていった。もう亡くなった祖父も祖母ももうあちらの世界に戻っていることだろう。昨日は世界陸上男子100mの1次予選をワクワクして観た。睡魔に耐えられずに2次予選を観るまでに至らなかったのは不覚だが、今日は準決勝、決勝は目を皿にして観ることにしたい。どうしても好きになれないタイソン・ゲイとは対照的にやっぱり僕はアサファ・パウエルが好きで、スタート前に不安げな表情を浮かべるあの様子が気になって仕方がない。ウサイン・ボルトは別格だけれど。ただボルトの場合、今大会はディフェンディングチャンピオン、現世界記録保持者という立場で臨んでいるために北京五輪のときのように一筋縄にはいかないのではないかと密かに思っている。それを跳ね除けて勝ったらそれはまさに鳥肌もので大興奮だけれど。

ちなみに1次予選の走りからはA・パウエルの調子がよさそうに思えた。最後に力を抜きすぎて予選通過の3位を逃したんちゃうのと一瞬びっくりもしたけれど、それもまたご愛嬌でちぐはぐなそういうところもまた僕は好きだったりする。

さて、今夜の準決勝と決勝はどんな戦いになるのか今から楽しみである。
感じたところ思ったところはまたここで書いてみようと思う。
乞うご期待!




京都店特撰―たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯っている。

京都店特撰―たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。

  • 作者: バッキー井上
  • 出版社/メーカー: 140B
  • 発売日: 2009/08
  • メディア: 単行本