平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

研究室の大掃除。

クリスマスの今日は大学に来る最後の日。よって大掃除をする。研究室が9月に竣工したばかりの建物にあるので部屋の中はほとんどきれいである。しかし、汚れていないからといって大掃除をしないというのは、なんだか気持ちが片付かない。新しい年を迎えるにあたっては、一つの区切りとしてやはり大掃除はしておきたい。

というわけで、昼前に大学に到着していそいそと部屋を片付け始める。まずはデスク周辺。積み上がった書類と無造作に並べられた本を整理整頓。あっ、こんなところにあったのかと、ついこの前探し続けていた書類が出てきて驚く。それが立て続けに2度ほど続いて、来年からはきちんと整理しておこうと心に誓う(確か昨年もそう誓ったはずだ)。

たかだか3か月ほどなのでそれほど乱れてはおらず、あっというまにデスク周辺は終了。そこからふと部屋のレイアウトを変更しようと思い立ち、大小一つずつのテーブルをあーでもないこーでもないと動かす。腕組みをしながらひらめいた通りに動かしてみるといい感じに仕上がった。なんだか違う部屋になったようで初々しい気分になる。

それから本棚を軽く整頓し、ほこりを払って雑巾がけ。仕上げはコロコロで部屋中をはいずりまわって無事に大掃除は終了。これで心置きなく来年を迎えられそうな気になる。また来年もここで頑張っていこうという気になった。

それからもろもろの雑事を終え、今こうしてパソコンに向かっている。先日のブログに書いたように、23日は「てつがくカフェ」にて話をさせていただいた。少しその時のことを書いておきたい。

お題は「近代スポーツとせめぎ合う日本人の身体感覚」。選手時代に感じたり、考えたり、また気付いたりしたことを中心にお話しさせていただいた。現代社会における身体観はどこか歪んでいるんじゃないか。身体の不調をそのまま医者に丸投げしたり、症状を抑えるためだけに薬を服用したり、食べものを数字に置き換えたカロリーなる概念をそのまま信じこんだり、筋力重視の身体運用だけがもてはやされたりするのは、ちょっとおかしくないでしょうかと投げかけてみた。話の語り口についてはまだまだ拙くて、少々お聞き苦しい点があったかと思う。今から思い返してみても不細工な展開だったなあと、少々落ち込んだりもする。しかし、話の内容については若干蛇行しながらもまっすぐ話すことができたのではないかと思っている。まっすぐというのは、自分の気持ちに正直にということだ。

話を聴いてくれているのはご年配の方ばかりで、後半部分の討論ではそうした方々からたくさんの貴重なご意見を賜った。誠に自らの未熟さが明るみに照らされて、恐縮モードにならざるを得ない雰囲気になったりもしたのだが、だからこそボクにとってはとても貴重な場にもなった。たくさんのことに気付かされた。いかにボクがものを知らないことを突きつけられて卒倒しそうになりながら、でもそれに気付くことができたことの喜びは何ものにも代え難く、とても有り難い時間であった。

私たちにとってスポーツとは何か?
現代社会におけるスポーツの役割とは何か?

この2つの問いは、これまでラグビーという世界にどっぷり浸かってきたボクにとっては、身近にありながらも実は最も手の届きにくいものである。事を為そうとして流れに身を任せるようにどっぷりと浸かっているうちは、自らが立っている場所を相対化することは難しい。ラグビー界における慣習が、野球界やサッカー界とどのように違うのか。トレーニングの方法から酒の飲み方まで、おそらくあらゆる点で違ってくると思うのだが、それに目が行き届きにくい。それがスポーツ以外の分野ということになればなおさらだ。今の自分を背中から見下ろすような視点を持たなければ、それは見えてこないだろう。

皆さんの意見に触れてこれらのことを体感できたことが、とても大きい。具体的にいえば、現代社会におけるスポーツの役割については、ボクが想像していた以上に風当たりが強いことを実感したのである。スポーツが、私たちや私たちが住む社会に何をもたらしているのか、このことを性根を据えてもっと考えていく必要があると思うのだ。

「スポーツが私たちにもたらすもの」を考えていく上で突き当たるのが「身体」もしくは「身体運動」についての根源的な問いかけだろう。「スポーツが現代社会にもたらすもの」についてはスポーツ社会学やスポーツ人類学などを含めて様々な切り口があると思うが、まず学校スポーツとプロスポーツの違い、つまり人間的資質の涵養と勝利至上という一見するところ相反する問題を考え抜く気力が必要となろう。

とにかく。
自らの経験と研究を結び付けてもっともっと体系的に考えていく必要がある。研究の道はまだ始まったばかりだ。あせらず根気よく考え続けていこう。

さて、辺りも暗くなってきたことだし、そろそろ帰宅の途に就くことにする。研究室からの最後の更新ということで、みなさまどうかご機嫌よう。