平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

平穏無事こそ何よりだ、の年の瀬。

2009年もあと残り数時間となった。冬休みに入っていくつもの忘年会で飲んだくれている合間に大掃除をしたり年賀状を書いたりしていたら、あっという間に大晦日になった。当たり前だがもうすぐ2010年を迎える。びっくりである。

テレビを見たり街を歩いたりして年の瀬の雰囲気を感じたら少し感傷的になって、今年はどんな一年だったのだろうかを振り返ってみたくなった。大学教員2年目の今年はボクにとってどのような年だったのだろうと回顧してみる。

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うーん、なんだかよくわからない。少し疲れているのだろうか、頭の中に浮かんでくるものが何もない。たぶん、手帳を開いて1月から順番に見ていけば、あんなこともこんなことも浮かんでくるのだろうが、そこまでして思い出したくもないような気がする。どうやら時系列に過去を整理するよりも思いつくままに振り返りたいのがボクの本音のようである。だがしかし、頭の中には何も浮かんでこない。困った。

たぶんというかおそらく、昨年までの数年間はあまりにたくさんのことがあり過ぎたがゆえに、今年は平穏な印象を受けているのだろう。31歳で現役を引退してからというものなんだかんだと忙しい日々を過ごしてきて、そうした日常の日々は、当然のようにラグビー選手として過ごしてきたこれまでの日々とはまったく違うものだった。SCIXラグビークラブで中高生を指導しながら大学院に通って修士論文を書き、その翌年から大学教員としての生活をスタートさせ、今年で2年目を迎えている。目の前のやるべきことにがむしゃらに打ち込んできたが、まさに打ち込んでいるときは自らを客観視することはなく、ごちゃごちゃ考えることなく論文を書いて中高生を指導していた。読まなければならない本と、続きが読みたくて読みたくてたまらん本を読んで、やたら愉快な仲間たちとお酒を共にしてきて、ふと頭を上げてみたら今のボクがいた。

言葉で大げさに修飾できるような、そんな際立つ出来事ばかりが人生に起こるわけではない。そんなことはわかっているつもりだが、しかし周りを驚かすような目の覚める出来事を求めているボクがいるのも事実だ。自らのパフォーマンスで観客に喜んでもらいたい、ボクのことを応援してくれているファンを失望させるようなプレーは絶対にしないと誓ったかつての想いが、まだかすかにボクの中に残っている。こうした心性は、皆からの脚光を浴びたいと望むということよりも、長年ラグビーに携わってきた経験からくる職業病みないなものなのだろう。周囲の期待に応えようとしすぎてできもしないことにまで手を広げ、挙句の果てに「あわわ・・・」となるのは、このときの誓いからくるものなのだろうと思う。たぶん。

激動のここ数年に比べて2009年は平穏無事に過ごすことができた。そのことにとても心穏やかでいられるのは、この職業病みたいなものが治まりつつあるからだと思う。もしかすると昨年までならば焦燥感を抱いたかもしれない。もっとこうしないと、もっとああしないとと、期待に応えるべく自らを鼓舞することに何の抵抗も示さなかっただろう。でも今年はそんなことはない。正直に言えば少しの焦りはあるけれど、そのくらいの焦りはよりよく生きていく上でのスパイスとして必要だ。20代も半ばを過ぎた頃から常に意識の片隅にあった現役引退。それがもたらす焦燥感に比べれば屁のツッパリにもならない。


というような、一読しただけではなんだかよくわからない、ボクだけにしかわかり得ない1年の総括をしてみました。ここまで書いたものを読み返してみて思うのは、ボクという人間の構造が組み変わりつつあった1年だったのだろうなということ。今年、スポーツ教育と身体論についての研究をほとんど進められなかったのは、ボクがボクのことを把握し切れず放置してしまっていたことに起因していると思います。世のスポーツ選手がどのように感じているのかはよくわかりませんが、少なくともボクにとっての現役引退は予想以上に大きな出来事だったように思われます。今になってそれが痛烈にわかりました。それがわかった今となっては、もう無理はしないでおこうという気持ちでいられることができます。おそらくは完全に拭い去れないであろう未練がましい気持ちをめいっぱいに愛でながら、眼前に広がる新しい道を一歩一歩ゆっくり歩んでいきたく思います。

2009年もブログにおつき合いいただきまして誠にありがとうございました。また来年も、今まさに心に生起している思いや考えに忠実に書いていきますので、引き続き足を運んでいただければと思います。私的ブログですから好き放題に書き殴りますので、「殴られるなんてごめんよ」という方は速やかにお立ち去りくださいませ(笑)。

それでは皆様、また来年。どうぞよいお年を!