平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

ラグビーとの対話「其の20」くらい?

あれよあれよという間に10月も半ばを過ぎてしまった。時間というものは早くなったり遅くなったり、時にはたわんだりして、本当に気ままなヤツである。時計の前でじっと秒針をじっと見つめている時と、学生と話をしたり読書に夢中になっている時とでは、時間の流れ方は明らかに異なる。目の前のことに熱中すれば時間という概念は消失するが、時計を見て時間を確認した途端にそのなんとも言えない心地よい瞬間は雲散霧消する。書いている時や読んでいる時は大概この集中状態にいるわけで、この集中状態に身を置くことにボクはなんとも言えない幸福感を感じる。だから時計はいらないし、いや、いらないというわけではなく、こんなにもあっちこっちに設置して欲しくはないというのが本音である。

さてと、ラグビーワールドカップも3位決定戦を含めてあと4試合を残すのみ。勝ち残っているのはフランス、ウェールズ、オーストラリア、ニュージーランド。どこが勝つのかに興味があるというよりは、意地と意地がぶつかり合う試合が見たいと思う。とか言いつつも、この前に書いたブログでは勝利国予想をしたわけだから興味がないわけではない(ものの見事に外したけれど)。確かにどの国が優勝するのかというのもまた見どころではあるが、それがもっとも興味を引くポイントというのでは決してなく、あくまでも両チームが鎬を削る戦いが見たい。激しいタックル、ここ一番でのトリッキーなプレイ、後頭部に目がついているかのようなオフロードパス、ゴール前の鬼気迫る攻防。これらさえ見ることができればそれでよい。

それにしてもラグビーはオモシロイと思う。プレイヤーとして感じていたオモシロさもまた格別だったが、引退後に歴史を調べたり他のスポーツと見比べたりしてじっくり見ることによって初めて感じられるオモシロさはたまらない。この違いは、湯船にどっぷり首まで浸かっているときに感じられる温もりと、バスタオルで体を拭いたあとの外気温との差でジワジワ感じてくる温もりとの差、みたいなものかもしれない。こんなにもボクの身体は温まっていたのかと気づかされるのは、あのときどっぷり首まで浸かっていたからこそなのだろう。

このまま続けていくと恋人を自慢するがごとく惚気た文章になるのは火を見るよりも明らかなので、これ以上は深入りしないでおくけれども、ただ一つだけ言わせてもらえるならば、若かりし頃に頭の先から足の先までどっぷりと浸かってきたラグビーというスポーツに、引退した今になっても大いに興味が湧くというのは本当に幸せなことであり、そのことにはただただ感謝するしかない。ボクをラグビーに引き合わせてくれた中学時代の友達家族にはもちろん感謝の念が尽きないが、この人たちだけではなくこれまでのすべてのチームメイトや指導者がいたからこそ、今のボクがこんな風に感じられるのだと思う。

自分がずっと携わってきたスポーツに誇りを持つことができる。これって当たり前のようでいて、実は当たり前ではないのではないか。一所懸命に取り組んできたスポーツだから好きで好きで仕方がない筈なのに、どうしても好きになれずにモヤモヤしている。あまり思い出したくもない過去を引きずっているおかげで、好きだと口にすることがどうしても憚られる。こういう人は世の中に意外にたくさんいるのではないだろうか。ただ漠然とだけれど、ボクにはそう思えて仕方がない。かく言うボクも、少し前まではそのように感じていた節がある。ケガが癒えずに悶々と過ごした日々が脳裏から離れず、どうしたってラグビーを斜めからみてしまう時期があった。それは半ば自分を否定することであって、やっぱりしんどかった。でも今は違う。まっすぐにラグビーというスポーツのオモシロさと向き合うことができる。できている。

ようやく何かが整ったと言えるのかもしれない。準備ができたという言い方もできるかと思う。心を含み込んだ身体が癒えるというのはこういうことか、という実感が今はある。ボクの身体が癒えたとかそういうことではなくて、「身体が癒える」というのがどういったことなのかがわかる、ような気がするのだ。

とか言いつつも、またすぐに違うところが混沌としてくるのだろう。たぶん身体というのはそういうものなのだ。だからいくら後輩に誘われたからとは言え、神戸マラソンを走ろうなんて気にもなったのだ。現役時代のボクだったら鼻で笑って断っていたに違いない。いや確実にそうだ。だって長距離走は苦手も苦手だったのだから。

これまでにも今日と同じようなブログを何度も書いたけれど、たぶんまたこれからも今日と同じようなブログを書くことになるだろう。そうに違いない。なぜならこれがボクにとってのラグビーとの対話だからである。両者の距離は絶えず揺れ動きながらも、でも絶対に離れることはなくボクの傍らにラグビーはそっと「ある」。こうしてずっとずっとブツブツグダグダ言い続けるはずだ。

さて明日は神戸製鋼の時のチームメイトと【船越】で飲んでからのラグビー観戦。とても楽しみである。