平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

リソースコーチになりました。

相も変わらず足取りが重いけれど決意表明をした以上は書かねばなるまい。と渋々、書き始めたところである。「決意表明」をしていなければおそらく今しばらくは放置していただろう。決意を表明する、つまりこれは自らの考えを言葉にしておくってこと。そうやって書いたことが心のどこかに引っかかっているから、「やれやれ、ああやって格好つけた手前は書かないと」という動機がいつのまにか生まれる。これを「動機」と呼んでいいのかわからないけれど。とりあえず書けば何かが立ち上がるってことだよな、うん。

さて、いきなり話は変わるが、先週末は久しぶりに秩父宮ラグビー場に足を運んだ。ラグビーの試合を見に行ったのではなく、グラウンド敷地内にあるラグビー協会の会議室で行われた研修会に参加するためである。今年度から「リソースコーチ」を仰せつかることになったので、活動するにあたって知っておかなければならないあれこれについてレクチャーを受けたのである。

「リソースコーチ」とはいったい何か。一言で言ってしまえば、国際舞台で日本代表が活躍するために日本ラグビーのスタイルや選手の育成指針等を全国に提示する役割を担う。なんだかわかったようなわからないような、ややカタめでいささか実感に欠ける自らの文章に首の辺りが痒くなったりもするが、とにかくまあそういうことである。

2019
年にラグビーW杯が開催されるのは周知の通りだが(いや、ぜんぜん周知されてませんよね。あるんです、この日本で、2019年に、アジア初のラグビーW杯が)、そこで日本はベスト8つまり決勝トーナメントへの進出を目標に掲げている。これまで一度も決勝トーナメントに進出したことがなく、それどころか1987年の第一回大会以来まだ1勝しかしていない日本にとっては高すぎる目標かもしれない。いや、「かもしれない」ではなく高すぎる、と思う。昨年秋に行われたW杯の戦いぶりを振り返ってみればそれは明らかである。

しかしだ、国内で行われる大会で予選敗退というのはやはり許されることではない。ここは何が何でも勝たねばならない。そこはある種の矜持として譲れない最終ラインであり、国際大会で戦うスポーツに課された義務でもあるとボクは思っている。

ラグビー協会はそのいささか高い目標の達成に向けて選手強化を進めてきた。その一つが2年前からはじまった「リソースコーチ」という制度である。日本ラグビーが目指す方向性を全国に示す、高校生年代からの一貫指導システムを日本全国に行き渡らせる、主たる仕事はこの2つで、実際の活動はどうかというと、全国9つの地区に分けて行われるブロック合宿に出向いて、選手への指導を行うとともに各地の指導者に対してレクチャーを行う。ミーティングでは日本ラグビーが目指す方向性をレクチャーし、グラウンドでは細かな技術・スキルや身体の使い方までを指導するのである。

ただ、各ブロックにはW杯の開催が決まる遥か昔から指導に従事されてきたコーチの方々がおられる。高校生年代のラグビーが今もさかんに行われているのは、そのほとんどが中学や高校の先生であるこのコーチ陣のご尽力のおかげである(ボクも現役時代には大変お世話になった)。先ほども書いたようにこの方たちにレクチャーすることもボクたちの仕事となる。言わば指導現場でずっと汗をかかれてきた方たちに向かって話をする必要があるってことだ。だからこそいい加減なことは話せないし、理解すべきことはきちんと理解した上で合宿に臨まなくてはならない。さらには自分自身がこれまでの競技経験から身につけた技術やスキルや知見も、きちんとした言葉に乗せて差し出せるようにしておかなくてはならないだろう。そうでなければ、何のためのリソースコーチなのかがよくわからない(と、まだ新米ながらに考えているのである)。

自分の頭を整理する意味でつらつらと書いてみたけれど、改めてここまでを読み返してみると、うん、これはなかなか骨の折れる仕事である。

当然のことながら一度の研修ですべてを把握できるはずもなく、まだこれから勉強することは山積みである。知識として理解しておかねばならないことはたくさんある。だが本質的な問題はそこにはないのだろうと思う。知識的なものは書類とにらめっこすればなんとかなるはずだ。学生の頃の一夜漬けを思い出してとにかく詰め込めばなんとかなる(いや、別に思い出さなくてもよいのだが)。だけど本当に大切なのは知識ではなく、そうした知識が生み出される元になった理念や哲学である。言わばニュアンスであり、エッセンスである。ここの共有なくして本当の意味での日本ラグビーの向上はあり得ない。この部分は決して詰め込むことはできず、実際の活動を通じながらでしか身につかないものだ。だからそれなりの時間がいる。必ず、いる。

だが2019年まであと7年しかない。じっくりと構えて活動することが理想ながらも用意されている時間は限られている。それに、そのひとつ前の大会である2015年のW杯ではベスト10を目標にしているので、この目標を達成した上でとなると残された時間はほとんどないに等しい。

どう考えてももう少し時間が必要である。しかし、十分な時間がボクたちには用意されていない。そしてここで焦れば大切なものを失う恐れもある。うーん、ムズカシイ。とは言え、やるしかないのもまた事実で、ここがとても悩ましいところである。

今のところボクの頭の中では「リソースコーチ」をこんなふうに理解している。とにかくやるしかないことはわかっているが、「やるしかないのだ!」と割り切ることの弊害として考えるべき事柄が疎かにならないようにだけは気をつけたいと思う。気をつけて何とかなる問題ではないのかもしれないけれど、とにかく気をつけておこうと思う。

という今回もまた「決意表明」になってしまった。ま、いいか。