平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

ラグビーW杯2011、フランス戦を終えて。

ラグビーW杯が開幕してからというもの、生活の中にラグビーのにおいがぷんぷんしている。テレビやパソコンの中もラグビーのにおいで充満している。ツイッターのタイムライン上にラグビーの話題がちらほらみつかるのは言わずもがなで、ラグビー漬けのここんところはボクにとっては願ってもない生活で、とてもええ感じである。

その影響からか、このブログにもたくさんの方が訪れてくれている。どこのサイトから飛んできているのかなと調べてみたらYahoo!ニュースだった。W杯開催にあたってラグビーのページができていて(http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/sports/rugby/)、そこではラグビーにまつわるあれこれが掲載されている。そこに、ラグビー日本代表には外国人選手がいることについて書いたエントリーが、「元日本代表選手などの意見」として紹介されていたのである。自分が書いたものをたくさんの人に読んでいただける機会が増えるのはやはりうれしいもの。載せていただいてありがとうございます。

それにしても先日のフランス戦は熱い試合だった。試合前、多くのメディアは「未だかつて勝利をしたことのないフランス相手に金星を狙う」というような、かなり誇張した報道で盛り上げていたが、正直なところボクはこれっぽっちも勝てるとは思っていなかった。失点をどれだけ抑えることができるのかという悲観的な視点から、試合を見ようと思っていた。おそらくというか、絶対に負けるのは違いない。けれどもだからといって手も足も出ないわけではなく、フランスを相手にしてどのプレーが通用するのか、それを見極めてやろうと思っていた。

開始10分ほどで嫌な予感がした。ボロボロに負けるという最悪のケースもあり得るなと思った。だがしかし、である。そこからの日本代表は粘りのあるプレーを連発した。あのフランス相手にひるむことなく立ち向かう姿には、現役選手への名残としていまだに疼くちょっとした嫉妬心が消え去るくらいに、見入ってしまった。スクラムは劣勢ながらもボール争奪局面ではほとんど互角。接点(ボール争奪局面)でのひ弱さを指摘されていたあの時代からすれば、目に見えて躍進したと思う。フランス戦でもっとも収穫を得た点が、この接点で当たり負けしない力強さだろうとボクは思う。

後半開始早々、2つのトライを阻止した。この時の粘りは本当に素晴らしかった。フランスにとっては後半開始早々に得点を奪い、楽な展開に持ち込みたかったに違いない。その企てを阻んだ粘り強さ、1人では歯が立たなくても2人、3人が群がって相手の突進を阻止するあの粘り強さに、かつての日本代表にはなかったたくましさを感じ取ったのはボクだけではないだろう。

その後トライを奪い、PGも決めて4点差に迫ったときは「ひょっとして」という気持ちになった。「これっぽっちも勝てるはずがない」と試合前に思っていた自分が恥ずかしくなり、心の中で「ごめんなさい」と誰に向けての謝罪かわからないままにつぶやいたのを覚えている。焦りの表情を浮かべるフランスの選手たちを見て、展開如何によっては金星もあり得るかもしれないと本気で思った。まったく現金なものである。

だがしかし、この期待は見事に打ち砕かれてしまう。後半残り15分ほどで3トライを献上。万事休す。最終スコアは21
47。点差だけみれば完敗も、試合内容からはそれほどの差はないと思われる。

「それほどの差はない」、か。果たして本当にそうなのだろうか。

各国のメディアがフランスに善戦した日本を挙って賞賛しているようだが、あくまでもそれは格下チームだとみられていたが故のことである。つまり「意外にもようがんばったやないか」ということで、これを海外も賞賛していると解釈していてはいつまでたっても勝てやしないだろう。「あと一歩」まで詰め寄った試合のあとに、本気で悔しがる態度が選手やファンにもみられるようになって初めて同じ土俵に上がったと言えるのではないだろうか。

てなことを踏まえて、やや冷静に試合を振り返ってみれば、「それほどの差はない」と感じたのは、一瞬でも「勝てるかもしれない」と感じたが故の錯覚かもしれないとも思う。あと一歩まで追いつめたという現実が、両国の実力の本当の差を見えなくするってことはあり得る。この「あと一歩」が実のところとてつもなく大きな一歩かもしれない可能性については、きちんと吟味しておかなくてはならないだろう。

思い出してみてほしいのだが、2003年のW杯でも強豪国であるスコットランドとフランスには善戦した。この時の勇敢な闘いぶりから各国のジャーナリストは日本代表チームを「ブレイブブロッサム」と評した。このことからも言えるように、この2試合は「あと一歩」という言葉で振り返ることができる試合内容だったのだ。今回のフランス戦は確かに面白かったし、この2003年大会と比べても接点での強さが格段に上がっているという点で試合内容は評価できる。だが、やや冷めた目でみたときには8年前とほとんど変化していないと指摘することもできる。

少なくとも8年前には、すでにフランス相手に「あと一歩」の試合ができるところまできていたのである。だとすれば次にすべきことは何か。このことについてじっくりと腰を据えて考え始めるべきだろう。

「あと一歩」の分析が必要なのだと思う。メディアの言説に乗せられることなく冷静な態度で、この「あと一歩」の内容を突き詰めることが今後の日本代表のレベルアップには必要だろう。それこそ2019年の日本開催でひとつの結果(集客を含む)を残すためには、善戦に満足している場合ではない。そのためには次のニュージーランド戦が勝負だ。ここでまたかつてのような敗戦を喫するようなことがあれば、このフランス戦の奮闘が水泡に帰すことになる。フランス戦であれだけできたのだからオールブラックスを相手にしてもそこそこいけるんじゃないか、などと思ってたらとんでもない目に遭うだろう。

おそらくというよりも絶対に、ニュージーランドとの試合に勝つことは難しい。しかし負け方に工夫を凝らすことはできる。「最初から負けるつもりで試合に臨むのは不謹慎だ」というマインドは明らかに「子どもの発想」である。このマインドに近い考え方がかつての日本を壊滅的な状態にまで至らしめたのを忘れてはいけない。玉砕なんて言葉は使うべきではないのだ。

あのオールブラックス相手に今の日本代表がどこまでやれるのか。とても楽しみではある。ただ純粋に楽しみとは思えず、少なからずの怖さを抱いてしまうのは、ボクがラグビー選手だからだと思う。オールブラックスなるものの実力とその存在の価値に想像力が及ぶからだと思う。だから日本のラグビー経験者のほとんどは、おそらく同じような心持ちではないかと推測されるがいかがだろう。

勝ってほしいとは言えない。だけれども、負けてもかまわないとは言わない。それでも期待している。うまく言葉にならないなにかを、待っている。

そんな気分だ。