平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

強いチームには哲学があるということだ。

21日のトンガ戦は残念だった。わざわざ相手の強みを生かすようにも思える戦い振りに、地団太を踏みながらテレビ画面に見入っていた。

トンガの強みはブレークダウンにある。タックル後のボール争奪局面では強靭な体躯を生かして無類の強さを発揮する。それがトンガという国の特徴である。これは今大会に限ったことではなくこれまでにもずっと指摘され続けていることで、コアなラグビーファンならほとんど常識であろうと思われる。にも関わらずラック周辺を執拗に攻め続け、ブレークダウンでの勝負を挑んだジャパンの戦い振りにはどうしても疑問符をつけざるを得ない。おそらく見た目以上にトンガ選手の体躯は強かったのだろうとは思う。しかしながらそこを丁寧に想像してみても、なぜにあれだけ近場にこだわったのかは、やはり納得がゆかない。

自陣ゴール前のスクラムからも、すぐにキックを蹴るのではなく2度ポイントを作ってからのキックを徹底していた。あれは明らかに戦術だろうが、なぜその決め事を徹底したのか、その意図もよくわからない。なんというか、一言で言えば消化不良な試合で、だから悔しくて、憤る気持ちをいささかでも落ち着かせるべく試合後すぐの更新は避けたというのに、結局、愚痴っぽい文章になってしまった。ああ。

てなわけでトンガ戦の感想はこれまで。言いたいことはたくさんある。でも今はまだ書かない。なぜなら明日(27日)にカナダ戦が控えているからである。フランス戦、ニュージーランド戦、トンガ戦、カナダ戦、総括はこの4戦を終えた後に改めて行いたい。もしかするとカナダ戦でベストパフォーマンスをするかもしれないし、まったく歯が立たないままに敗北するかもしれない。試合はやってみなければわからないのだ。

と、まだまだラグビー気分でウハウハだけど、そういつまでも浮かれてはいられない。今日から秋学期が始まり、ボクは明日から講義がある。休み気分を払拭すべく身体のモードを切り替えねばならないのである。というわけで今の今まで講義の準備に勤しんでいた。久しぶりなだけにうまく話せるかどうかが不安ではあるが、準備だけはきちんとしておけば、あとは野となれ山となれである。雑談や脱線しても困らないように、いやむしろそちらに夢中になれるように、興味ある分野の読書は欠かさずにおかないと。

それから神戸マラソンの日までとうとう2カ月を切った。走り込むペースを上げなければ当日は泣きをみることになりそうで、こっちの方にもまた精を出して取り組んでいかなければならない。さあて、今から研究のための読書をするか、それとも走り込みを敢行するか。うーん、まずは読書をして、暗くなる前にグラウンドを走るとするか。

唐突だけど最後に本の紹介を。

オールブラックスが強い理由ーラグビー世界最強組織の常勝スピリット』(大友信彦、東邦出版)がおもしろい。ルーベン・ソーンやトニー・ブラウンなどの来日した元オールブラックスに加えて、ニュージーランドでプレー経験のある田辺淳や堀江翔太などが、オールブラックスの強さについて語っている。現日本代表監督のJ・カーワンに、もしかすると時期日本代表監督に就任するかもしれないエディ・ジョーンズも名を連ねている。言葉の端々からオールブラックスの強さの理由が読み取れるので、ラグビーファン、じゃなかったオールブラックスファンは必見だと思う。

その中で印象的だったところをちょいと紹介しておこう。

「日本ラグビーに足りないのは『ペース』と身体の使い方」だと指摘したルーベンソーン。この部分に「おおっ!」と唸った。この発言の前後では身体が小さいことにも言及しているが、しかし身体の小ささは如何ともしがたい現実である。だが「使い方」なら身につけることができるし、それこそ「深層筋」の活用という観点から能という日本文化にその答えを探すこともできる。これまで薄々ながらボクが考えていたこととも一致する。それからもうひとつの『ペース』は、いわば勝負どころを嗅ぎ分ける力。つまり流れを読むってこと。ピンチやチャンスに応じて上げたり下げたりするものが「ペース」である。ただ、これをチーム全体で統一して行うことが必要なわけであり、一筋縄で身につくものではない。しかしながら、この「ペース」はこれから強化していく上での核になり得る部分であり、たとえ手探りであっても求め続けなければジャパンが世界に伍して戦うチームになるのは難しいだろう。

それからもう一つ。少し長いけど引用しておきたい。

あれだけの強さを誇るオールブラックスがワールドカップではまだ1度しか優勝してない理由について、トニー・ブラウンは次のように答えている。

(ここから引用)
「それがワールドカップ、それも決勝トーナメントの怖さなんだと思う。どんなチームであっても、その日に最高の力を出せれば、相手を上回ることはある。決勝トーナメントには、そういう力のあるチームだけが勝ち残っている。(…)1試合に絞って臨めば、実力以上の力を出せることもあるんだ。それがスポーツだよ。
 だけど僕は、一番価値があるのは、そのチームがどれだけ長い間、安定した強さを発揮し続けられるかだと思っている。1990年代であれ、21世紀最初の10年であれ、10年という長いスパンで見たとき、ナンバーワンの座に君臨していたのは間違いなくオールブラックスだった。それが、4年に1度のワールドカップ決勝で勝てなかったからといって、価値を損ねるものではないと思うな。」
(引用終わり)

現役の時にこんな気持ちでやれていたら……とかつての自分の未熟さを恨めしく思いながら、今日のところは筆を置くことにする。なんともカッコよすぎである。