平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

2011’神戸マラソン前夜に。

いよいよ明日は神戸マラソンである。当日までまだ時間は充分にあると思っていたら、あっという間に前日になった。いつもと同じ時間に目が覚めてすぐに内田樹先生の『呪いの時代』を読み、二度寝したあとマラソンウェアを買いにぶらぶらと出かけ、友達の結婚式の2次会に出席する嫁を送り出したりしてたら、あっという間に夜になった。ゼッケンもつけたし、明日の集合時間の確認もしたし、これであとはご飯を食べて寝るだけである。寝て起きたらもう走るのかと思うと、なんだか少しドキドキしてくる。

なんとなくこの感じは懐かしいぞと思ったら、現役時代、公式戦前夜の「あの感じ」に似ているのだった。緊張の度合いは比べるまでもなく現役時の方が強いけれど、意図的に何かに取り組む、すなわち本番を前にした緊張感という意味では感覚がとてもよく似ている。講演をする前もこれと似たような感覚が襲うけれど、たぶん同じ類いのものだとボクには感じられる。何かを為そう、為したいという想いに付随して必ず訪れるものに緊張感がある。たぶんボクはこの緊張感が好きなのだと思う。

「これまでの人生の半分以上を必死になって身体を使ってきたのに完走できなかった恥ずかしいなあ」という弱気の虫が騒いだり、「この調子だとかなり早いペースで走れる気がするぞ」という根拠のない自信が湧いてきたり、はたまた直前になってちょっとだけ面倒くさくなってきて、一刻も早く住吉方面に行きたい衝動に駆られたり、心が揺らめくのもまたご愛嬌である。こうした揺らめく中で徐々に気持ちを一つの方向に向けてゆく。その作業をこれまでずっとやってきた。だからとても懐かしいのである。

この神戸マラソンで試したいことが一つある。それは「マラソンに求められる身体能力とはいかなるものかを探ること」である。

ラグビーというスポーツに求められる能力は、前後半合わせて80分間ですべてを出し切ることである。全速力で走ることはもちろん、走る方向を絶えず探りながらスピードをコントロールしたり、地面に倒れてもすぐにまた起き上がって走ったり、80分間の中でじたばた動くことが求められる。それに相手との接触があるため、もしもタックルされたときにはすぐに受け身がとれるように身構えていなければならない。ジタバタしながらピリピリしつつ、それでも総じて冷静でいなければならないのがラグビーというスポーツである。

これに対してマラソンはまったくの正反対と言ってもよい。頻繁に方向転換はしなくてもよい。自分にとっての最適なペースで走ることが目指されるため、急激なギアチェンジなどしなくてよい。自分めがけて相手がぶつかってくる危険がないから、精神的に張りつめておく必要はほとんどない。神経を尖らせた上で冷静さを保たなければいけないのがラグビーだとすれば、マラソンは全身のこわばりを解きながらも解きすぎないような仕方で冷静さを保つ必要がある。

もちろんオリンピックを目指すような、競技的に行われるマラソンではこの限りではなく、それなりに神経を尖らせることも必要になってくるのだろうけれど、ただ根本的な部分における競技特性はほとんど正反対だと思う。

つまり端的に言えば、ラグビーに求められる持久力とマラソンに求められる持久力の違い。このあたりをちょいと探りながら走ってみようと画策しているのである。

「今だ!トライがとれる!」という場面では思い切りアクセルを踏み込んで加速を試みるのがラグビー。目の前にぶら下げられた人参を追いかけるように、このときばかりは全速力で走る。相手DFに阻まれてトライがとれないとなると、すぐさま次のプレーにも参加しなければならないが、このときもまた気力を振り絞って全速力に近い速度で走る。そうこうしているうちにどちらかがミスをしたりしてレフリーの笛が鳴る。そこでちょっと休憩できる。つまり、走る→休憩→走る→休憩・・・という連続がラグビーである。

ラソンはほぼ一定のスピードで走り続けなければならない。スピードを上げすぎれば最後にバテてしまうし、序盤で抑えすぎればタイムは伸びない。その瞬間瞬間の、自分にとっての最適なペースを保ちながら、且つ周囲の選手と駆け引きを行いつつ走る必要がある(ボクの場合はこの駆け引きはしなくてよいけれど)。

瞬間的に加速できるように準備しておきながら相手とぶつかり合いつつ80分間を走るのがラグビー。マラソンは、速度を上げすぎないように、でも抑えすぎないように、その瞬間瞬間の最適なペースを辿ることが求められる。この違いを身体で感じたいなあと思っているわけである。

さーて、明日はどうなることやら。どうやら雨は上がったようで一安心。いくら雨中で走ることに慣れているとはいえ、初マラソンはできることなら好天の中で走りたい。まあでも降ったら降ったときである。久しぶりにこの身体とじっくり向き合って、あーだこーだと対話しながら走るとするか。ここまで書いたらとても楽しみになってきたぞ。感想は乞うご期待!