平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

一杯のコーヒーと神戸マラソンのこと。

どんなに忙しいときでもコーヒーは味わいながらゆっくり飲む。そう決めたのがいつの日だったのかは思い出せないが、とにかく決めたことだけは憶えている。そしていつのまにかそうやって飲まなくなっていて、それがいつからなのかもよく思い出せない。どうやらボクは日々の仕事に忙殺されているらしい。為し崩し的にいろんな決めごとが疎かになってきている。これはまずい。自分の与り知らないところで何かが崩れてかけているのかもしれない。これが危機感っていうやつか。なるほど最近感じている不調はここらあたりから発生しているのかもしれない。意味とか結果とか根拠とかを考え過ぎて、その反動からか感覚的なものに頼っていた。こうして頼る感覚的なものほど当てにならないものはない。言葉であれこれ考えたことが土台になければ感覚は当てにならない。


なーんてことがさっきコーヒーを飲んでいるときにふと頭を過ったのでブログを書くことにした。


決めたことは守らなければ意味がない。守れないなら最初から決めるななどと、子どもでもわかる根性論的な言明をしたいのではもちろんない。已む無き事情で守れないときもありながら、それでも守ろうと努めることこそに意味がある。あっ、また意味なんて言葉を使ってしまった。つまりのところやっぱりここなんですね。文章を書いてても結局のところ意味とか結果とか根拠とかにとらわれるものだから、ちっともオモシロさが感じられない。オモシロくないからといって書かないわけにはいかないのだけど、幸か不幸かやらなければならない仕事が山積しているものだから、それを理由に自らで書くことを遠ざけている。わかっているのだけどどうにも指が動かないのである。

えっと、本は書くには書いてます。仕事の合間にカリカリと。しかし書き下ろしがこれほど苦しいとは思ってもみなくて、はっきりいって悪戦苦闘中。正直に言うと産みの苦しみを味わっている最中なのであります。自分と向き合うことがこれほどタフな作業だとは思わず、いったい自分は誰なのか、何者なのか、よくわからなくなってきてもう大変。脳震盪の後遺症を患ってから現役を引退するまでのもがいた2年間。自分の中ではとっくにケリをつけたつもりでいたのに、恨み辛みや後悔なんかのドロドロした感情がまるで膿みのように吹き出してきて、ありゃびっくり。個人差はあれどそれなりの経験が言葉になるまでには相当な時間がかかるもの。そう教えてくれたのは誰だったっけか。まあいい。つまりボクはあの時の経験をまだきちんと言語化できていない。したつもりになっていただけだった。その事実にはたと気がついて唖然として、これはしっかり腰を据えないとアカンぞと思い直したわけでございます。


もちろんそれでも書きます。当たり前ですが、書きます。書かないとあきませんし、心の奥の奥では書きたいと願っている。ボクが書くものに期待を抱いてくれる人がいる限り、決してやめません。だからこそ丁寧に書いてゆきたいと思うし、それにはまとまった体力がいる。知的なものも身体的なものも。

眦を決して覚悟を決めたところで、もう一杯、味わいながらゆっくりコーヒーを飲んで始めよう。さてと。


あっ、そうそう、神戸マラソンについても書かないといけないのだけれど、結論から言えばもう走らないことに決めました。タイムは昨年を大幅に下回る6時間30分で、古傷の左足首が痛んで後半はすべて歩いてしまったのでした。これほど不甲斐ない成績なら「また来年リベンジをするぞ」と気持ちが昂ってもおかしくないのですが、なぜだか湧いてこず、途中のある瞬間に「自分には向いていない」ってことを悟ってしまった。「悟る」などという言葉はやや大げさに過ぎるのかもしれませんが、つまりは確信を抱いてしまったわけです。その理由についてあれからずっと考え続けているのですけれど、まだ言葉にできず、そうこうしているうちにこれだけ時間が経ってしまったのでした。

すみません、一人勝手に得心したことだけを告げる文章ですよね。でも、今はそうとしか書けません。努力すれば誰でも楽しめるとか巷間では言われているけれど、ボクの周りではもうやめますという人も結構いるから、このあたりは商業的な臭いがしないでもない。いずれにしても向き不向きはどのスポーツにもあって、少なくともボクには向いていなかった。ゴール手前でたまたまみつけた神戸製鋼時代の後輩も同じようなことを言っていたし、昨年走った元日本代表の後輩は翌日から10日ほど脚を引きずる羽目になり「2度と走らない宣言」をしていたことは謹んでご報告しておきます。古傷だらけの身体は長時間ゆっくりと動き続けるマラソンには合うわないのだろうというのが、これら後輩たちと話す中で行き着いた結論です。とにもかくにも、ボクはもうマラソンは走りません。悪しからず、ではなく、参りました。