平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

2020年2020年7月30日(告知があります)。

この度の新型コロナウイルスの感染拡大にあたっては、世界中の人が震撼しています。もちろん僕も例外ではなく、生活を見直すとともに研究に向かう態度をあらためる必要に迫られて、小さくないストレスを抱えて日々を送っているのが正直なところです。

新型コロナウイルスに感染しない、他人に感染させないために行動の自粛が求められているのと同時に、社会経済活動も停滞させないように配慮しなければならない。二つのミッションの狭間で取るべき行動を決めることが、しんどいんですよね。ただ、ウイルスの脅威は今に始まったわけではありません。歴史を振り返ると、過去にもこうした感染症の蔓延はたびたび起こっていました。つまり私たちは、いつか訪れるかもしれないこうした情況を意識の外に追いやって、日々を安寧に過ごしてきただけなんです。悲観的な未来予測を避け、可能な限り楽観的に物事を考えて今までやってきた。そのツケが一気にやってきたのが現状だと思います。

この度のウイルス禍は、その日その日をかけがえのないものとして生きる、そのことを思い出させてくれています。

友人とも頻繁に会えなくなったことで、ともに酒を飲みながら食事をする時間が大切に思える。大学の講義がオンラインになり、対面で行う従来の方法には身体同士が響き合う学びがあったのだとあらためて気がついた。旅行や映画、アーティストのライブにスポーツ観戦などが、自分の人生に彩りを添えるものであったと、今までよりさらに愛おしくなる。

歌人俵万智さんは「不要不急にこそ豊かさがある」と言っていました。やってもやらなくてもいい、それをするのは今じゃなくても構わない、それでもつい興味を持ってそれに向いてしまうのは、心の奥の方でそれを強く求めているからです。この「それ」には人それぞれ当てはまることが異なるとは思いますが、ざっくりいうとこの「趣味的ななにか」は、生を充実させるためには必要不可欠なんですよね。なぜならそこには「豊かさ」があるから。

さて、教育に携わる身として、新型コロナウイルスへの感染が拡大する中でずっと心配していることがあります。

この度のウイルス禍は、多くの人の健康を脅かし、また社会の経済を停滞させる恐れがあるのは周知のところです。感染拡大を避けるための行動指針や政策が、多くのメディアから報道されています。でも、ここには決定的に抜け落ちているものがあります。それは「子ども」の存在です。

幼児はマスクをつけることにも難色を示します。保育園や幼稚園ではソーシャルディスタンシングを保つことはできません。修学旅行が中止になり、外出に制限がかかるこの現状を子どもはどのように感じているのでしょうか。休校措置による学業の遅れ、それに対する不安を抱えている子どもは多いでしょう。とくに受験を控えている子どもは、僕たち大人の想像をはるかに超える不安を胸に溜め込んでいるに違いありません。

それぞれに不安を抱える子どもたちはまた、このウイルス禍でうろたえる大人たちの背中も見ています。世界各地で頻発する「マスク警察」、第2波到来を思わせる感染状況にも関わらず予定通り実施された「GO TO キャンペーン」、東京五輪の開催を優先したかと思わせる感染者の発表など、世の大人たちはどこからどう見てもうろたえています。子どもの目には僕たち大人の狼狽ぶりがどのように映っているのか。それを想像すると激しく心が痛みます。

マスクの着用が子どもの発達や成長に及ぼす影響も指摘されています。呼吸が浅くなることによって横隔膜が動かない、マスク着用により表情が見えない中でのコミュニケーションが強いられるなどの指摘が、専門家から為されています。僕たち大人は、これからの社会を担う子どもたちのことを、もっと真剣に考えなければなりません。

つまりほとんどの行動指針や政策の対象に「子ども」が含まれていないのです。

そう考えていたところにミシマ社から一通のメールを受け取りました。そこには「こどもとおとなのサマースクール 2020」を開催すると書かれてありました。さすがミシマ社です。子どものことを憂いつつも、自らの息苦しさを解消することにかまけていた僕のモヤモヤした気持ちが、いくらか晴れました。子どもに向けたイベントをこのタイミングで開催するミシマ社を、僕は全面的に支持します。

内容は以下をご覧ください。

www.mishimaga.com

 

イベントを説明する文章の中で以下の箇所に目が止まりました。

「自宅待機や過剰な非接触で生じた「損失」を補いたい。先の見えにくい社会で生きていくための力をつけたい。そうした時代に求められる感覚をしっかり高めていきたい。なにより、学びは遊びだ! という体験をしてほしい。
 このような声に応える夏に、一出版社としてとりくみたいと考えた次第です。」


「学びは遊びだ!という体験」にハッとさせられました。この度のウイルス禍で自分がいかに深刻に物事を考えているかに気づかされたんです。

物事を真面目に考えることは大切です。でも「深刻」ではダメなんですよね。健康や命に関わる問題だからつい悲壮感が漂う「深刻さ」に心が囚われてしまうのだけど、そうならずに、あくまでも「真剣」に取り組む。それはつまり「遊び心」を忘れないってこと。自動車のハンドルにも「遊び」があって、それがなければ安定的に走行することができません。それと同じです。この「遊び」は、先に紹介した俵万智さんの「不要不急にこそ豊かさがある」にもつながると僕は思います。

この「こどもとおとなのサマースクール 2020」は僕も拝聴します。講師の真剣な語りに触れることで、子どものみならず大人の僕にも学べることが見つかる気がするから。来週を楽しみに、それまでの仕事を真剣に、まるで遊ぶように楽しく取り組もうと思います。