平尾剛のCANVAS DIALY

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「魂のこもった試合〜フィジー戦」身体観測第33回目

W杯初戦でオーストラリアに大敗を喫したラグビー日本代表は、12日にフィジーと対戦した。次回W杯出場をも視野に入れて掲げられた今大会の目標は「2勝」。その目標を達成するには是が非でも負けられない相手がフィジーである。

フィジーとの試合では、初戦のときから先発メンバー全員が入れ替わっていた。初戦と2戦目のあいだが中3日しかないという過酷な日程では、どうしても初戦の疲労を残したまま2戦目に臨まざるを得ない。こうした事態を考慮し、「2勝」するためには落とすことのできないフィジー戦に全力を尽くすべくカーワン監督が採用したのは2チーム制であり、初戦と次戦のメンバーを完全に分けたのである。

まさに退路を断って臨んだフィジー戦だったが、周知の通り31-35で敗北。負けはしたものの試合内容は手に汗を握る展開の連続で、全身バネのような身体を持ち、しなやかな動きをみせるフィジアンに対して、日本代表は低いタックルを執拗にあびせ続けた。ときに二人がかりでボールを奪いにかかるタックルは観客を興奮させた。

こうした気迫にたじろいだのか、フィジーは序盤からイージーなミスであるノックオンを連発。流れが徐々に日本へと傾き始める。そして、戦前には23点ものビハインドがあると予想された試合は、ノーサイドの笛が鳴る瞬間まで勝敗の行方がわからない僅差の試合となった。試合終了間際の数分間、あきらめずに逆転トライを目指して攻め続ける日本代表の姿に、スタジアムは沸きに沸いた。

負ければ悔しい。勝つに越したことはない。だけれど勝利だけがすべてでもない。あれほどまでひたむきにタックルを繰り返す日本代表を、僕は久しく観たことがない。この試合を観たほとんどの人がラグビーを好きになるんじゃないかと思えるほどに熱のこもった試合だった。次は20日ウェールズ戦。勝利というおまけがついてくる、魂のこもった試合を期待して止まない。

<07/09/18毎日新聞掲載>