平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

僕の左肩を知りませんか?

左肩が肩甲骨あたりからポロリとなくなる夢を見た。
痛みはなく、左肩になんだか力が入らないなあと思っていたら、横に立っている誰かに「肩がないで」と言われて、「やっぱりそうか」とのん気に受け答えしたところで目が覚めた。目覚めた瞬間はわずかに芽生えた恐怖を感じていたが、それが夢であったことにホッと一息ついたあとに冷蔵庫を開けて水を飲んで落ち着いた。時計を見たら2時50分だった。

しばらく心臓が高鳴ったままだったけれど、疲れていたのかそのままベッドにもぐり込んでいつのまにか眠りについていた。そこからはうなされることもなく朝までノンストップの熟睡。それでも夢の記憶は鮮明に残っていたのであった。

なんでこんな夢を見たんやろうと思ったが、ふと、寝る直前まで『バカボンド』を読んでいたことを思い出した。武蔵が吉岡伝七郎の左腕を切り落としたのち、相討ちに持ち込もうとする伝七郎に抱え込まれた刹那に相手の脇差を抜いて腹を刺したあたりから、数を恃んで復讐を試みる吉岡勢70人を斬りまくったあたりまでを目を皿にして読んでいたから、ちょっとグロテスクな夢を見たのかもしれない。

伝七郎の腹からは腸がこぼれ落ちていたし、武蔵が伝七郎の後継である植田の右頭部あたりの皮膚をばっさり斬ったところから70人との死闘は始まって、多勢に無勢な吉岡勢の斬られっぷりはまるでホラー映画さながらなのである。死体に群がるたくさんのカラスがすでに息絶えている死体の目玉を穿り出しているシーンもある。微に入り細を穿ったあの描写は細かく見ていくとそれはそれは生々しくもあるが、剣を手にした者同士が斬りあう場面としては描写が生々しい分だけリアリティを感じるわけであるから、読んでいて気持ちが悪くなるとかいう以前にいつの間にかすっかりとその場に居合わせているかのような錯覚に陥ってしまう。

人が斬られたところを見たことがないので、実際にそれがリアリティに溢れているのかどうかを検証することはできないけれど、「そういうふうになるよな、きっと」という確信めいた実感は揺るぎないものとしてある。

だってさ、あれだけ鋭利な刀を振り回すんやで、そりゃ腕もなくなるってなもんでしょ。

とまあ、そんな世界に眠る直前まで身を乗り出していたのだから、夢で肩がなくなることだってあるのかもしれないと思えてきたりもする。だとすれば僕は誰かに左肩をばっさりと斬られたことになりはしないか。なんだ、弱いんやん、オレって。いや、斬られても生きていたということは、武蔵のように負傷しながらもなんとか戦いを乗り越えたということかもしれないが。ってそんなええもんでもないよな、なんせ左肩がないんだから。

夢の登場人物はまったく覚えてなくて、肩がないことを僕に教えてくれた親切な人に心当たりはいないから、そのあたりのことはよくわからないままなので、やっぱりコワい夢ではある。夢は無意識の表れだというし、「肩がなくなる」のには何かの予兆かもしくは大きな意味合いがあるのかもしれない。もしそうならその意味を知りたい気もするけれど、やっぱり知らないままでいた方がいいような気もする。うーん、やっぱり気味が悪いぞ、うん。

さてと、気を取り直して今からグランドに行こう。
たっぷり汗をかいて昨夜の夢なんてすっかり忘れてしまおう。