平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

健康っつーのはなんじゃらほい?

身体観測の原稿を書こうとPCを開いてみたら、

「今週火曜日は祭日のために夕刊がないのでお休みです」

との連絡メールが届いていて思わずあららと肩透かしを食う。

連絡メールはすでに先週末に届いていたようなのだが、

いささか週末は帰りが遅くてPCを開く間もなかったので、

ついさっき目にすることになったわけだった。

「さあ書くで!」と意気込んでいただけにその反動でへなへなとなる。

やる気になっているうちに書いてしまって2週間ほど熟成させようかとも考えたけれど、800字ほどの原稿だから一気に書いてしまった方がリズム感が出ていいような気がするのでやめた。ことばにしてから熟成させるのではなく、頭の中でグルグルとかき混ぜておくことにする。

ラグビーネタなのでこの2週間のトップリーグの試合を概観するうちにまた新たに気付く点があるかもしれないしね。そう考えたら楽しみになってきたな。

さてと、時が経つの本当に早いもので

夏休みも終わって明日から秋学期が始まる。

のんびりと起きて研究室に行き、自分の研究に好きなだけ時間を使えていた夏休みが今となっては懐かしくもあるけれど、学生がいない分だけ静けさが漂う大学の雰囲気に些か物足りなさを感じてたりもしてたから、明日からが楽しみでもある。

秋学期からは「健康行動学」という講義を一コマ担当する。

必修なだけに内容はほぼ決められているので、

これまで担当されている先生に相談してご教授いただいた。

ふむふむ。なるほど。

いちいち頷きながら資料に目を通す。

これまで十分に理解できていたはずのことが、意外にもあちこち抜けがあったことに気付かされて項垂れる。がくっ。

栄養、運動、休息のことなど、ラグビーを通じて身についているはずなのだけれど、いざそれをことばにして説明できるかといったら「…」だな。

ということに激しく気付いた(おそっ)。

スポーツをする、ということは自分の身体についての取り組みとも言えるわけで、パフォーマンスを向上させるという大きな目的と健康への配慮という人として当然の心がけが分かちがたく結びついている。だから、実践を伴ったそれなりの経験を積んでいるという自負が僕にはあって、まあそれなりに資料を作れば話はできるだろうと高を括っていた。

敢えて言うまでもなくこうした見通しはすっごく甘かったわけである。

まあでも、引退間近の2年ほどでこれまでのラグビーへの取り組み方が根本的に間違っていたことを痛感させられて、そこでいったん鼻を折られているわけだからさほどの「自負」ではなく、正確に表現するならば無知な僕の「勘違い」にしか過ぎなかったわけなのだけどね。

プロテインに加えてアミノ酸を飲んで高タンパクのささみを食べて、しっかり練習してぐっすり眠るというあのサイクルが、いかに身体を機械に見立てた考え方に基づいたものであったのか。スポーツ界に浸透しているこうした一連の流れは、今となっては考えるまもなく身体が即座に「NO」と反応する。

機械観的身体観や単一原因モデルに基づいた医学的見地、

構成要素により食べものを分類する栄養学的視点、

食事をカロリーという数字に置き換えただけの単純思考。

こうした見方が当たり前のように軽々しく社会全般に流通しているのは否めない。

でもだからといってすべてを否定するわけではもちろんなくて、医学的知識を携えた医者がいなければえらいことになるし、しっかりと栄養を考えた食事もカロリーを抑えることもやっぱり必要である。

大切なのは、どれか一つだけを取り出してきて原因を決めつけ、その原因だけを取り除こうとする考え方は避けなければならないということである。

あくまでも身体に表れた現象としての様々な症状は、複合的な要因によって引き起こされたものであり、その複合的な要因はいろいろな視点から掘り下げることで「朧気ながらに」見えてくるものだ。だからいろいろな視点を持つことが大切であって、医学的見地や栄養学的視点、精神分析的解釈、直感などの切り口はそうした視点の一つに過ぎないのである。

でもこうした解釈に至る前に、学生たちにとっては今の社会で「健康」がどのように考えられているのかを知る必要があるのだな。おそらく「健康」という概念について、大きな怪我や病気をしたことがなければおそらくこれまで深く考えてきたこともないはずだから、そこをまずは理解する必要があるのだ。

(気付くの、おそっ)

不思議なことに、「健康」ってそのことについて深く考え始めたときから健康じゃなくなる。「健康病」なることばがあるように、あまりにも健康を意識しすぎるとその志向性が不健康へとつながっていく。つまりは意識の中で「健康かどうか」を考えなくてもよい状態が「健康」なんだよな、うん。

言うなれば、何事もなく一日を終えてベッドに潜り込めるのが健康そのもの。

だから余計な情報を知ることでかえって健康を損なう素地が心に芽生えたりもするだろうから、そのあたりをどのようにしてことばにしようか今は頭を悩ましているところである。

あー、たぶんしどろもどろな講義になるな、これは。

ま、とにかくやってみよう。

それでは明日に備えて寝ることにする。

オヤスミナサイ。