平尾剛のCANVAS DIALY

日々の雑感。思考の痕跡を残しておくために。

女子サッカー・川澄奈穂美選手の取り組み。

現在発売中の『Number Do』(winter 2012)を読む。サッカー女子日本代表川澄奈穂美選手が両手で力こぶを作りながら振り返っている表紙のそれである。その川澄選手のちょうど腰のあたりに白い文字で、“理想のカラダのつくりかた。”と書かれている。また筋トレやバランスのとれた食事などの効率的に筋肉をつける方法が、これでもかとばかりに綴られているんだろうなと、テーマにはほとんど惹かれなかったものの、川澄選手の逞しい後ろ姿に思わず目が留まり手に取ってしまった。いや、逞しい後ろ姿ではなくその可愛い笑顔に、というのが本音である。

その愛嬌のある笑顔で人気急上昇中の川澄選手が目指す理想のカラダは、なんとケモノだそうだ。見ていて美しいカラダではなく、ケモノ。さすがは世界一に輝いたチームのメンバー、掲げる目標がひと味違う。その字面からは臭いすら漂う「ケモノ」なカラダは、ボクが解釈するところによると、おそらく「動物的なカンが働くカラダ」だろう。その瞬間瞬間に訪れる情況において常に最適なプレーが選択できるカラダ。頭で考えるまでもなく独りでに動いてしまうカラダ。まさにケモノが身を翻すようにしてボールに迫る。その容姿からは到底想像できないけれども、そのギャップがさらに大きなインパクトを与えている。

そうなのです、ボクは川澄選手のファンなのです、ここまで書いてきて敢えて言うまでもないことでしょうけれども。

「ケモノなカラダ」がロングスパンでの目標だとすれば、もう少し手前には「疲れないカラダ」という具体的な目標を掲げているという。決して大きくはないカラダで世界と戦うために必要なのが「疲れないカラダ」であり、日々、こうしたカラダづくりを意識しつつ練習している。確かに試合を見ればグラウンドを縦横無尽に走り回っている印象がある。その上、ある試合では瞬間的に時速30km100mにすると12秒)が出ていたというのだから、ときに全速力をしながらもずっと走り続けるその能力には恐れ入る。

疲れないカラダ、か。そんなカラダになれたらどんなにいいことだろう。現役を引退した今となっては日常生活においてということになるが、そうなるとカラダよりも心の部分における取り組みが重要になるのは火を見るよりも明らか。人間関係を円滑にするためには、というような視点でね(ってなんのこっちゃ、脱線、失礼)。

でもこの疲れないカラダとは、言ってしまえば効率的に身体を使うってことで、つまりのところは筋肉に頼らず骨や関節などの身体構造を生かして動くことに他ならず、これって武術的な身体運用ってことだ。行き着く先はやはりここなのだな。なるほど。

以下は興味深いなあと感じた箇所。



・カラダづくりが好きなので無意識にトレーニングをやっているから「やってる感」があまりなく、歯磨きやご飯を食べるように日常の一部となっている

・試合の1日前と2日前はカラダとの対話を心がけている。試合でパフォーマンスを発揮するために、もっと動いておきたいと思えば攻守の切り替え時などで意図的に走り込み、あまり動かなくても大丈夫だと思えば適当にサボる

・朝、昼はあまり量は食べず、夜は自炊をしてバランスよく食べる。食事の内容はあまりこだわり過ぎないようにしている


スポーツ選手に抱くイメージとしてのストイックさとはまるで毛色の違う取り組みであることは一目瞭然。手応えばかりを追い求めてゴリゴリに行う練習ではなく、試合でパフォーマンスを発揮することを第一に考えながら身体と対話をするような仕方で取り組む練習をし、とんでもない量だったり、サプリメントから栄養素までびっしりと管理された食事ではなく、あくまでも楽しむことを前提とした食事をする。これが世界一に輝いたチームの一員の、スポーツへの取り組みである。

川澄選手以外にも取り上げたい人物がいるのだが、それはまた後日。
この『Number Do』、おススメですよ。